本研究の目的は、現代ロシアにおける政府企業間関係について、石油・天然ガスなど資源産業を中心に分析することにある。ロシア政府による石油・天然ガス部門への関与政策は、日本をはじめ国際社会にとって、ロシアの資源にかんする生産および輸出体制を把握するうえで、重要な問題であろう。 そこで本研究では、ロシアの産業・エネルギー政策に対する意思決定過程、および企業経営やコーポレート・ガバナンスにおける政府の関与に着目した検討を行った。資源産業におけるロシアの大手企業の活動に対する政府の影響力を中心に、ロシアにおける政府と企業との関係のあり方を総合的に考察した。 ロシアの政府企業間関係は、2008年5月にメドベージェフ大統領とプーチン首相(前大統領)による双頭制と呼ばれる新たな指導体制が発足した後も、連邦政府が産業界への支配力を高める方向で推移してきた。2008年4月、ロシアの主要産業政策の一環として、資源産業など国家によって指定された戦略分野への外資参入を制限する「戦略産業法」の制定や、地下資源を保有する国家と地下資源を利用する企業との関係を規定する「地下資源法」の改正が行われた。資源産業における政府企業間関係を規定する新たな制度であるこれら二法は,相互に密接な関連を持っている。これら法施行の背景にある制度改革過程の分析や新制度運用状況の分析は、現下のロシアにおける国家企業間関係の深い理解に資すると考え、本研究では,上記二法によって示された政府企業間関係のあり方について,以下の三点(1)政府による資源産業への関与の種類と度合、(2)ロシアにおける産業・エネルギー政策に関する意思決定および政策形成過程、(3)新政策・新制度がもたらした政治経済的効果、に特に注目した検討を行った。
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