研究課題/領域番号 |
23530343
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
足立 光生 同志社大学, 政策学部, 教授 (90340215)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 資本市場 / イベント・スタディ / 株価対策 / 高頻度データ / ETF |
研究概要 |
当該年度が研究開始年度であったことから、当該年度は地道に調査を行いながら、今後の研究に必要な基礎研究、基盤作りを遂行した。今回の研究をすすめていくうえで特に着目した事例はリーマンショック時に講じられた株価対策である。すなわち、2009年3月から4月にかけて政府あるいはその他機関から提唱された株価対策構想が対象市場に及ぼす影響を考察した。当該研究では第1に、株価対策構想の発表にもMiller[1977]の空売り規制効果と同様の効果が現れるという仮定の下で、日経平均型ETF市場を検証したところ、同質の内容を持つ構想が短期間のうちに追加的に発表された場合、構想が市場に及ぼす影響は徐々に縮小していく可能性を示した。さらに、固定平均リターンモデルを用いたイベント・スタディを使って検証したところ、最初に発表された株価対策構想が正の超過収益率を生んだことが明らかになった。第2に、株価対策構想がもたらす市場構造の変化について、構想発表前と発表後の日経平均型ETF市場を対象として、気配スプレッド比率、H-L比率、日中のTick回数から検証したところ、短期的には該当市場の構造が大きく変化した可能性は確認できなかった。また、それらの指標に対してGrangerの因果性検定を行い、構想発表前と発表後で比較したところ変化は殆ど見られなかったものの、H-L比率の他の指標に対する影響がわずかに軽減したことが明らかになった。これらの結果は資本市場における株価対策構想の効果を検証するものとしての意義が深いと思われる。そこで、これらの研究結果をまとめて今年度に単著の論文として、「株価対策構想が市場に及ぼす影響 ―2009年のわが国における事例より―」同志社政策科学研究第13巻2号pp1-20 を公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究の目標は、政策が資本市場に与える影響とその波及メカニズムの過程について検証するため、通常用いられるイベント・スタディの手法を(とりわけ市場収益率を測定するためのモデルの拡張を重視しながら)政策検証にふさわしい方法へと発展させることにある。このような目標を目指して、今回は株価対策構想という事例を扱いながら緻密な検証を行った結果として、現在までに達成できた点として以下の2点が挙げられる。 第1に分析手法の発展である。当該年度の対象とした事例においてはその性質上特にイベント・スタディの通常の手法を適用することが最初から難しい状況におかれていた。というのは、通常はイベント・スタディではイベントが発生していない状態の正常収益率を推定するためにマーケットモデル、あるいはマーケット調整モデルが使用されることが多いが、今回の研究対象とした市場がETF市場においてそのようなモデルを使用した場合、被説明変数と説明変数が類似してしまうためである。そこで、様々な調査を行い、こうした制約のある状況から当研究が目指したのは、オーソドックスなマーケットモデルやマーケット調整モデルを使ったイベント・スタディではなく、MacKinlay[1997]を参考にして固定平均リターンモデル(Constant mean return model)を用いて検証を行った。 第2に、上記アプローチによって、株価対策構想のアナウンスメント効果を計測することができ、政策への提言ができたことにも意義が大きいと考えられる。 手法としては今回はよりシンプルな改良という方向性であったが、逆に今後は様々な応用モデルを取り入れながらより意義深い政策評価を行いたいと考えている。このように、研究の発展性はまだまだ様々な可能性を残しているものの、該当年度の達成度としては満足のいく水準であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当研究は資本市場における最新の事例を取り扱うことにその意義がある。最近もアルゴリズム取引等の海外からのニーズを受けて、わが国の証券取引所でも際だった技術進展がみられている。また、そうした現象と並行して資本市場における問題がより複雑化しており、これまでにみられなかった様々な新しい問題が様々な箇所で生じている。このような理由から資本市場を研究対象とする場合、資本市場のみならず周辺市場を含めて視野を広げながらきちんと検証していくことが必要である。また市場関係者の感覚を十分に把握しながら調査をこれまで以上に確かなものとしていきたい。事例についてもより最新のものを検証していく必要がある。 それを受けて、分析手法についてはより最新のアプローチをとりいれていく必要がある。そもそも本稿の目的の一つとして、政策が資本市場に与える影響とその波及メカニズムの過程について検証するための「新しいイベント・スタディ分析」の開発がある。これについては、イベント・スタディを旧来の手法にのみ拘泥してしまった場合、(そうした方法自体が的確であるか否かを別として)最新の分析手法を取り入れることに極度に限界が生じてしまうことも確かである。そのため、旧来型のイベント・スタディの手法に拘泥することなく、資本市場の新しい動きにあわせたより新しい分析手法をリサーチしてきちんと実践していくことが必要と考える。 さらに、該当研究の目標として、実際に資本市場に対して執り行われた政策が(その波及過程を含み)市場に的確な効果を及ぼしたかを検証することがある。そこについても理論を鵜呑みにしたり旧来の手法に拘泥することなく、市場関係者の持つ感覚を緻密に調査してそれを反映させることで、有意な政策提言につながるよう引き続き努力していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究自体の進捗状況については今年度ほぼ当初の予定通り順調に行われていると考えるが、研究費の執行状況については当初予定していた水準まで達することはできなかった。これは年度前半に研究費減額の可能性を意識しすぎたあまり、支出を必要以上に躊躇してしまい、年度後半になってようやく本格的な支出を開始したことによる。ただし、該当年度ではある程度基礎研究を遂行できたことから、次年度あるいはそれ以降にさらに研究が進展する可能性を感じている。次年度以降、基金を有効に活用させていただきながら、研究発展に邁進したいと考えている。 1年間研究をしながら今後の研究活動にさらに付随したいと感じている点は、より充実した最新の統計解析手法の知識取得と実践である。最新の時系列解析、エコノメトリクス、あるいはその他分析手法に関する文献等あるいは様々な研究発表の場で基礎知識をしっかり修得したい。さらに必要なのはそうした手法をきちんと実践できる環境であろう。最新の情報処理機器、または関連する付属機器を充実する必要があり、さらに統計解析ソフトウェア、数理ソフトウェア等の分析ツール等を用意することで分析手法を拡充させていき、充実した研究に取り組んでいきたい。 また、本研究の目標は政策が資本市場に与える影響とその波及メカニズムの過程についてきちんと検証することであるが、資本市場は着実に進化している。一つの市場だけでなく、より複合的な市場を対象にしていく必要も感じる。さらに、市場変化のスピードも速いことからより最新の動向に着目してリサーチを着実に行いたい。研究が対象とする事例として有用な事例に取り組めるよう、最新のデータを入手できる研究環境を今後も整備していく必要がある。この点についても研究費を有効に活用して研究を進めたい。
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