本年度も引き続き該当研究の応用事例に取り組み、単著の論文「デリバティブ取引停止措置が株式市場の価格形成に及ぼす影響-2012年8月の事例より-」を公表することができた。また、該当研究に関して「デリバティブ取引停止措置が株式市場の価格形成に及ぼす影響」として2013年11月30日、金融システム研究会で研究報告を行った。 当研究の着眼点は、Ross(1976)等による「デリバティブによって理論的に市場は完備される」という見解を発端としている。現実の市場でデリバティブ取引が停止した場合、現物の価格形成メカニズムあるいは投資家のポートフォリオ保有行動にどのような影響を与えるのかという視点から、当研究では2012年8月のデリバティブ取引停止措置時を例にとり、現物の価格形成について業種ごとの検証ならびに業種間の検証を行った。最初に、業種ごとの検証についてはイベント・スタディの手法を拡張し、33業種の業種別株価指数のTickデータを対象として、システム障害ならびにデリバティブ取引停止措置の2種類のイベントそれぞれで分析した。この結果、業種ごとのイベントへの反応を明らかにした。次に、業種間の検証にはイベント・スタディで得られた情報を応用して、両イベントへの反応度の高い業種別株価指数の相関を再検証したところ、デリバティブ取引停止措置によって業種別株価指数間で相関係数が上昇したことが明らかになった。そこでGranger因果性検定を行った結果、因果関係の存在可能性の高い業種間株価指数間についてはインパルス応答分析による検証も行った。このようにイベント・スタディの応用可能性を示唆したことは意義深いと思われる。 最後に、研究費の交付期間を通じて該当研究に専心することが出来て、3年間で合計4本の単著の論文をタイムリーに公表することが出来た。研究の基盤となった科学研究費の交付に心より感謝申し上げる。
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