研究課題/領域番号 |
23530344
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
後藤 玲子 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (70272771)
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研究分担者 |
DUMOUCHEL PAUL 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (80388107)
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キーワード | 潜在能力 / 非対称的集計ルール / 社会的関係関数 / グループ優先性基準 / 多次元指標 / アロー型社会的厚生関数 |
研究概要 |
本研究の目的は、アマルティア・センの提唱した潜在能力アプローチ(capability approach)の臨床的展開を図ること、換言すれば、実践的使用にたえうるものとして、定式化しなおすことにある。本年は、とりわけ次の2つを研究課題とした。第一は、視覚障害者に対する熟議的調査を通じて、現代日本社会に在る視覚障害者にとっての「基本的潜在能力」ならびに、潜在能力のフラクタル構造を定式化すること。第二は、複数の不利性グループの自律的決定を尊重した「非対称的社会的選択ルール」を数理的に定式化すること。第一の課題における「熟議的調査」とは、当事者と調査者さらには一般の人々が熟議を重ねつつ、仮説を確定していく調査を意味し、主として2012年7月に実施された。それにもとづく「視覚障害者の交通潜在能力」の定式化は、ジャカルタで開催されたHDCA学会においてはじめて報告され、その後、10月「生命倫理学会」、12月「支援のこれから研究会議第2弾――潜在能力アプローチの臨床的展開に向けて」(本研究プロジェクト主催)、3月「ファイナル・セミナー:生存の経済学に向けて」などで報告され、現在、海外学術雑誌への投稿に向けて改訂中である。第二の課題については、海外学会報告を経て英語学術論文に結実し、現在、投稿準備最終段階にある。本論文は、社会的政策評価の形成にあたって、潜在能力概念などの多次元指標を用い、人々の個人的評価判断を非対称的に集計するためには、伝統的なアロー型社会的選択モデルをどのように改変する必要があるかを探究する。不利性グループ優先性基準と潜在能力基底的パレート基準との両立を可能とするために必要な個人間比較のレベルを探るという意味でも興味深い結果が出された。2つの課題につらぬく問題関心は、潜在能力の測定問題を、社会的選択問題におきかえて、人々の合意にもとづく決定事項と見なす点にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年は、「視覚障害者の移動潜在能力に関する経済学的定式化」と「潜在能力指標にもとづく非対称的社会的選択ルールの定式化」という2つの課題について、調査を行い、仮説を立て、以下の報告機会を活用しながら、理論の精緻化に努めた。その結果、潜在能力アプローチの障害者の権利保障、地域公共交通の設計、医療費配分等への応用可能性が確証された。①ケイパビリティ――本人が選ぶ理由のある生のかたまり――に基づく社会的選択」②「潜在能力アプローチにもとづく医療資源配分の社会的選択――理論と臨床――」日本生命倫理学会③“The possibility of Constructing Group Appraisals of Capabilities---Focusing on the “Capability to Move”of Persons with Limited Vision,”HDCA Conference ④「潜在能力アプローチの視座―非連続性と特殊へのまなざし」京都大学⑤“Toward a Conditional Basic Income Welfare State?--Capability Approach and“Tax and Social Security Harmonization” Reform in Japan---,”Korea University(2)①“Securing Basic Capability for All,”,”SCW学会、New Delhi ②「すべての人に基本的潜在能力を!グループ別評価にもとづく社会的選択手続きの構想」SPSN研究会 ③“Operational formulation of Capability Approach—Consumption as Production—”WEAIconferenceなど。
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今後の研究の推進方策 |
最終年にあたる本年は、次の2つの課題を通じて、研究をしめくくる。第一は、これまでの研究成果をもとに、潜在能力アプローチの臨床的展開の可能性を拡げること、そのための理論調査マニュアルを作成すること、第二は、潜在能力アプローチをもとに、従来の新厚生経済学の批判的再構築を行うこと。これらに付随する課題は、潜在能力アプローチに対する哲学的視角と経済学的視角との相違と重なりを明らかにすること。第一の課題については、①医療資源配分への適用、②地域公共交通への適用、③教育への適用、という3つのテーマに関して、報告機会を活用しながら論文を執筆する。第二の課題については、Political Economy学会での報告、学術雑誌への投稿を契機として、潜在能力アプローチに関する経済哲学論文を広く世界に問う。同時に、『福祉の経済哲学思想』と『福祉の経済哲学理論』を日本語で刊行する。後者には、経済学における公正研究(fairness study)の到達点を含める。これらの活動を通じて、潜在能力アプローチを核とするアマルティア・センの経済学が、従来の新厚生経済学とどのように連続し、どの点で断絶するものであるかをあきらかにする。この作業は、経済学的思考法の特質と可能性をポジティブに解明するものであるとともに、経済学の方法を抜本的に問い直す作業でもある。ここでの成果をもとに、2015年(2014年に早まるおそれがある)Human Development & Capability Societyの東京開催の準備にとりかかる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究自体は、部屋でPCを前に考え、書き、読む一連の作業であるので経費は、紙の購入、プリンターなどの機器の不具合の修理などに限られる。ただし、本年度も、①2014年1月アメリカ・プリンストン大学で開催されるPolitical Economy学会での報告を予定しているので、その渡航費、英語論文校閲費などがかかる(胸腰椎複雑骨折の後遺症のためビジネスクラスが必要)。②10月に一橋大学で"Philospphical Foundations of Social Choice and Economic Analyses of Capability Approach"を開催するので、招聘者の国内旅費、研究協力謝金などがかかる。③関連して現在てがけている本、論文の完成に向けて、英語校閲、邦語校正、研究協力謝金などがかかる。他に、④報告書の作成にともなう印刷費、研究協力謝金等、⑤参考文献和様図書などの購入費、⑥国内調査移動費、研究会開催にともなう旅費、研究協力謝金などが発生する。
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