研究課題/領域番号 |
23530349
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研究機関 | 流通科学大学 |
研究代表者 |
青柳 龍司 流通科学大学, 総合政策学部, 准教授 (60412087)
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研究分担者 |
于 洋 城西大学, 現代政策学部, 准教授 (60386521)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流(中国) / 公的年金制度 / 財源調達 / 財政方式 / 日中比較 |
研究概要 |
「研究実施計画」の当初の計画に基づき、最初に青柳、于ともに文献研究、統計データの収集・整理を行った。 平成23年度における主たる研究実績としては、後述のとおり、学会報告1件、論文執筆1件である。この他に私的な研究会、勉強会等での発表がある。補助事業期間の初年度である平成23年度の位置づけは次のとおりである。すなわち、公的年金財政において新たな財源調達のあり方を検討するため、日中両国の年金財政の共通性と相違性を見いだすための最初のステップという位置づけである。 日本と中国の両国においては、社会保障制度、とりわけ本研究が取り上げている公的年金制度にまつわる課題は数多い。両国は高度経済成長という共通の経験を有しており、発展の過程において抱える問題もきわめて類似しているが、公的年金制度の財源調達、とりわけ保険料率のあり方はかなり異なっている。 このような事実認識の下、われわれは両国における年金保険料(率)に対する認識の違い、特に日本の過去の経験を参照しながら、主に中国の保険料(率)の問題について取り上げた。 平成23年度の研究概要は以下のとおりである。1.2004年の日本の年金改正や中国の年金改正における保険料負担の急上昇の要因について、その背景となる経済環境、社会状況を探った。その際、社会保険料引き上げを巡る議論を概観し、社会保険料の転嫁の問題について触れた。2.特に、賃金の低下による労働者への負担転嫁の仮説について、中国の事例を検討した。3.さらに、日本の高度成長期における保険料の変化と労働分配率の関係について、現在の中国の事例と比較考量した。特に中国の労働分配率について推計し、保険料率の上昇を転嫁の観点から論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の「研究実施計画」においては、主として1.先行文献に関する分析を行うこと、2.現地調査の実施とそれに基づく理論的・実証的分析を行うこと、および3.学会参加を通して研究成果を発表すること、を予定していた。このうち、1および3については、当初の計画通りほぼ達成することができた。2については、青柳が予定していた中国での現地調査において、受入れ側の不都合等により一部実施できなかった。ただし、現地調査は行わなかったが、メールを通じた意見交換や関連書籍等から、現地の制度やその運用実態をある程度把握することができた。于は浙江大学、瀋陽師範大学他に出張し、中国全体の社会保障および社会福祉制度の現状について聞き取り調査を行った。以上を勘案し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度においては、前年度で得られた知見に基づき、解決すべき課題についてさらに検討する。具体的には、公的年金財政における税方式のあり方や、支給開始年齢の引き上げのシミュレーションを行っていく。 今回われわれは、社会保険料の転嫁の問題について検討し、中国においては低賃金という形態での労働者への保険料負担の転嫁の可能性を指摘した。ただし、今後は賃金の上昇とともに年金額が引き上げられていくのであれば、年金財政に圧力が生じる。日本の高度経済成長期の終焉に行われた年金改正では、基礎年金勘定への国庫負担の導入が実施されたが、中国においても、保険料率がすでに高い水準にあるため、新たな財源としては公的資金(税金)投入が考えられる。果たして、財源確保としてはいかなる手段を用いて達成するべきか、具体的には、基幹税である所得税や消費税、あるいは両者のミックスといった手段を用いるべきであろうか。 平成24年度においては、このような問いに対して、税制改革論に基づいた議論、特に財源の効率性の観点からインプリケーションを得たいと考えている。さらに研究が進展できれば、現役世代から高齢世代への所得移転という現行の賦課方式を前提として、年金課税の分析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においても前年度同様、必要となる関連文献の分析とサーベイ、現地調査とヒアリングの実施、学会発表と論文執筆を行う。平成23年度の未使用分については、主に中国への現地調査のため計上していた旅費相当分であり、現地の受入態勢の不備から23年度は使用せず、24年度以降に繰越となったものである。これは平成24年度に申請した国内外への旅費と併せて使用する予定である。 平成24年度の具体的な使用計画は次のとおりである。必要な書籍や資料の購入費用に加えて、専門知識の提供やデータ整理入力作業に必要な謝金を計上した(物品費・人件費)。特に、和洋中文の関連書籍を購入し、財政学、税制、社会保障に関する制度的・理論的な最新見解を把握する。また、北京大学や中国人民大学等に在籍する研究協力者に対するヒアリングや現地調査を行うための出張費用を計上した(旅費・謝金)。その際、多くの場所で作業ができるようになるために、小型のノート型コンピューターを購入することを予定している(物品費)。さらに、研究の成果を国内外学会で発表すること、研究雑誌に投稿することなどを通じて、広く社会に向けて公表する予定である。そのために、国内外の学会参加費用、出張旅費、論文投稿に関わる費用(資料整理及びネイテイブチェックの謝金も含む)を計上した(旅費・その他費用)。
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