研究課題/領域番号 |
23530351
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
森田 憲 広島修道大学, 商学部, 教授 (10133795)
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研究分担者 |
森田 愛子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (20403909)
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キーワード | 国際情報交換 / 中国 / 文化 / 浙江省 / 長江デルタ / 直接投資 / 固形廃棄物 / 北京コンセンサス |
研究概要 |
平成24年度科学研究費補助金に関する研究は、「文化的要因」にかかわる国内的および国際的なふたつの研究を行った。ひとつは「固形廃棄物貿易をめぐる地域の文化的特徴」をめぐる研究であり、もうひとつは、「北京コンセンサス」を視野に入れた(中国の)「ソフトパワー」(あるいは「スマートパワー」)をめぐる研究である。 「固形廃棄物貿易」をめぐる調査・研究によって次のような成果が得られた。すなわち、海外から輸入した固形廃棄物の約80%は中国の東南沿海地域に集中している。そしてこの地域は製造業が発達しているが、自然資源に乏しく、しかも、国有部門も弱い。そのため、資源確保には、「自力更生」が必要である。この地域では、古くから「再生資源の収集」という業が存在した。そうした文化的伝統があったのである。その延長線上で、自助努力による民間加工業も発達しており、商品販売に必要な市場も自然発生的に興隆してきた。その典型的な例が浙江省であり、明らかに(浙江省の文化的要因にもとづく)「浙江モデル」の特色をみてとることができる。 中国の「ソフトパワー」をめぐる調査・研究は、今後必要となるであろう(中国の開発モデルとの関連のもとに)「中国の文化」が国際的に浸透し得る場合を探ってみた研究である。中国の「ソフトパワー」が重要になる局面とは、国際関係が(多極システムではなく)一極システムであるという特徴を持ち、いわゆる「ウイルソニアン」の考え方にそった国際システムが成り立つ場合であることがわかる(いうまでもなく、国際システム自体の是非は別の問題である)。 したがって、平成24年度の研究によって明らかなように、「固形廃棄物貿易」をめぐっても、「ソフトパワー」をめぐっても、「浙江モデル」を中心とする中国の文化的要因のおよぼす影響が明らかに有意であることが示されたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「文化的要因」を国内的および国際的側面で検討してみるという本研究課題の基本的な目標達成に向けて、(海外の共同研究者による協力にもとづいて)予定を上回る成果を得ることが出来た。とりわけ「浙江モデル」と(固形廃棄物貿易をつうじて)中国国外との密接な繋がりを見出すことが出来、併せて「中国における企業家精神の存在」ならびに「二次汚染という環境問題の存在」にふれることが出来た。さらにまた、中国の開発モデルにおける「文化的要因」の海外への浸透をめぐって、ジョセフ・ナイによる「ソフトパワー」概念を援用して、「一極システムにおける中国による覇権」の可能性の検討を行った(そしてその際に「浙江モデル」の文化的な有意性を理解することが出来たといえる)。 それと同時にジョン・ミアシャイマー等リアリスト派による「多極システム」の可能性の再検討が必要であることもまた明らかになった。したがって、「文化的要因」という視点から、国際政治学における「多極システム」と(キンドルバーガーに代表されるような)国際経済学における「一極システム」との枠組みをどうのように整合的にとらえることが出来るのか新たな模索が必要になったといえるだろう。 すなわち、予定を上回る成果の達成と同時に、新たな分析的枠組みへの模索の必要性が明瞭になったといってよい。 したがって、総じて判断すると、控え目に評価しても、(2)と(1)の中間というほどの達成度であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究のキーワードが、「文化」、「長江デルタ」、「直接投資」、「環境」、「北京コンセンサス」等であるという点は基本的に変わらない。同時にまた、それらキーワードと中国における開発モデルの特徴とを結びつける理論的枠組みが「新制度派経済学」とりわけ「経路依存性」だという理解も変わっていない。 すなわち、中国特色の文化、環境、直接投資等を、長江デルタ地域において模索し、「ワシントンコンセンサス」との対比でとらえられる「北京コンセンサス」という概念で理解しなおすということなのであり、そのための理論的枠組みが新制度派経済学とりわけ「経路依存性」ということなのである。 問題は、それではどのようにして「結びつける」かということであり、それが今後の推進方策の重要なポイントだということである。特に従来の「新古典派派経済学」(あるいは主流派派経済学)との相違を、理論的にも実践的にも、探っていくことの重要性をつねに念頭においておくことが不可欠である。言い換えると、新制度派経済学であれ経路依存性であれ、「新古典派派経済学」からの「乖離」の距離をはかりながらすすめる必要があり、どこに理論的枠組みの転換を見出すのかという問題でもある。 したがって、当面、われわれがなすべきことは、文献による研究をつうじた先行研究の一層の吟味であり、それにもとづいて、効果的な現地調査を実施することであり、結果として満足すべき成果を得ることであると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の課題は、一方で、先に述べたキーワードとの関連で「経路依存性」という理論的枠組みの彫琢をすすめることであり、他方で「浙江モデル」と「江蘇モデル」との、とりわけ文化的、歴史的、風土的等々の(文化的要因としての)実態の相違を、国内的ならびに国際的側面で明らかにしていくことである。そして、国際会議での報告ならびに質疑応答をつうじてより一層の進化をはかっていくことである。 そのためになすべきことは、文献・資料の渉猟をつうじて、「浙江および江蘇モデル」(ならびに中国の他地域の開発モデル)の特色の摘出を試みることであり、そうして得られたさらなる(理論的な)知見を土台として、実証的な方法によって可能なかぎり当該特色を揺るぎのないものにしていくことである。 そうした目標の達成を目ざして、次年度の研究費の使用計画としては、まず文献・資料の渉猟に必要な図書・資料費が必要であること、次いで、そうした研究活動を効率的に行う上で十分な性能を備えたパーソナルコンピューター・周辺機器ならびに各種ソフトウェア等の利用もまた欠かせない。さらに現地調査を行い現地での一層の協力を得て、精確な研究を行ってみるという計画が不可欠であり、そのための旅費ならびに謝金の使用が不可欠である。さらに本研究のような理論的枠組みの転換を試みる調査・研究には国際会議におけるパネルの組織およびそこでの報告・質疑応答をつうじて彫琢をはかることが重要であり、そのための旅費の使用がどうしても必要となるものと思われる。
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