研究課題/領域番号 |
23530352
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研究機関 | 高松大学 |
研究代表者 |
正岡 利朗 高松大学, 経営学部, 教授 (60249604)
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キーワード | 複数居住 / 二地域居住 / 移住 / 人口減少 / 多自然居住地域 / 地方圏 / 地域間交流 / クラインガルテン |
研究概要 |
本研究は、「複数居住」が多自然居住地域の人口減少対策として有効であると認識し、地方圏内における大規模成立及び継続の可能性について検討するものである。そこで、複数居住を人々の「新たな居住スタイル」として位置づけ、これにより「地方圏における限られたマンパワーの相互融通」を実現させるためには、可能な範囲でどのような条件整備が望ましいのかを、都市住民に対する促進策、多自然居住地域についての受け入れ策のそれぞれの観点より明らかにすることを目的とする。そして、地方圏における複数居住の円滑な実現には何が必要であるのかという情報を整理して提供できることが本研究の成果となる。 この課題を達成するために、以下の7つのテーマについて、逐次研究を実施していく計画である。 ①実践を希望する地方圏の都市住民のうち、どのような層が実践を継続できるのか、②複数居住を人口維持・確保策に導入した地方自治体等の現況や意識構造、③複数居住先として、選定されやすい地域や住宅の理由、④従たる住宅について、その取得及び処分の容易性の確保、⑤複数居住の継続について、「集落支援員制度」のようなソフト的支援施策の必要性、⑥複数居住の実践者と地域住民との交流の促進策、⑦複数居住の大規模実践による社会・環境問題発生の可能性 なお、それぞれのテーマについて、知見の導出には、ヒアリング調査、アンケート調査の手法を主として活用する。平成24年度においては、平成23年度に引き続き、上記について、ヒアリング調査を可能な限り多く行うことにより、知見の蓄積を図ろうとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始直前の平成23年3月末にひどい腰痛に見舞われ、約半年間、現地に出向く出張調査が不可能となり、計画の遂行がかなり遅れる結果となってしまった。同年10月以降は出張に耐えられるように回復してきたので、遅れを取り戻すべく、鋭意ヒアリング調査等を実施してきている。しかし、校務との兼ね合いもあり、完全に遅れを取り戻したとまでは評価できない。 上記各テーマについて、平成24年度末までにおいて、(研究期間4年間を通じての)個別の達成度は、概ね①が20%(10%)、②が80%(30%)、③が50%(20%)、④が20%(10%)、⑤が30%(10%)、⑥が60%(20%)、⑦が50%(20%)というものである(各テーマについてカッコ内は平成23年度末の達成度である)。 平成24年度中には大都市圏において各地方自治体等が実施する「ふるさとセミナー」等に9ヶ所参加し、現地調査を16ヶ所行った。これらにより、研究はかなり進捗した。とくに②と⑥のテーマについては、知見の蓄積も促進し、ほぼゴールの感触が得られている。ただし、①と④のテーマについては、まだまだ知見の蓄積が不足している状況である。 また、平成24年8月11日に、当方が主体となって企画・運営した「四国における交流・移住施策の取り組みの現状と課題」を開催した。これは、当方が理事を務める日本計画行政学会四国支部が主催したもので、四国内の研究者、行政担当者に広報を行って50名余りの出席者を集めた。 さらに、一般財団法人百十四経済研究所からの依頼により、「交流・移住施策の現状と課題」と題する論文を『調査月報』に寄稿した。これは、本研究の現在までの成果を中間報告的にまとめた内容であり、結論としては「交流・移住施策自体が試行錯誤の最中であるが、これらのみでは地方圏の人口維持・確保はとても覚束ない」ことを指摘する内容としている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度中には引き続き、各地方自治体等が実施する「ふるさとセミナー」等や現地ヒアリング調査を中心に研究を進捗させる所存である。とくに知見の蓄積がまだ不足している各テーマについて、できるだけその充実を図る所存である。なお、現在、多くの地方自治体等が重視しているのは、複数居住ではなく移住であるため、セミナー、ヒアリング先の選定も移住に関するものが中心となるが、これらより得られた知見を複数居住に当てはめて類推することが可能なものを優先して選定する。 ただし、実際のセミナー参加、ヒアリング調査の際には、「地方圏での移住施策には限界があり、自地域内での複数居住施策を中心にした方が望ましい」という当方の主張を各セミナーの担当者や各ヒアリング先に対して打診し、議論していくことで、主張の堅牢性をより高めていくこともこれまでにも大いに留意しており、この方針は今後も継続する。 これまでのヒアリングで得られた知見の一つとして、「クラインガルテン」がかなり人気を集めていることが挙げられる。クラインガルテンとは「滞在型農園」のことを指す。100坪前後の農用地と「ラウベ」と呼ばれる数十平米程度の滞在施設をセットにした区画が自治体等により数十区画整備され、年間数十万円程度の利用料で貸し出される。利用者は主に週末毎に来訪し、宿泊していくという形態をとる。これについて、実際の利用者は来訪距離による制約上、大都市圏住民のみならず、自県内、近隣県の住民も多く、運営上の工夫によって「農的な生活」を志向する個人等をうまく取り込むことができ、複数居住促進の有力な方策として考えることができる。そこで、クラインガルテンについて積極的にヒアリング調査を遂行したい。 なお、今後、景気回復が鮮明化するにより不動産価格の上昇も想定されるが、これは地方圏にまで波及するかどうかは注意深く見守りたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も引き続き、セミナーへの参加、ヒアリング調査を重点的に実施し、知見の蓄積を図りたい。したがって、「旅費」を中心に研究経費の執行を行う所存である。 また、「NPO法人ふるさと回帰支援センター」が運営している「ふるさと暮らし情報センター」は、数ある移住情報チャネルの中で、最近は一頭地を抜く存在であり、最新の全国的な移住、複数居住の現状把握については、同センターに協力を仰いでいる状況である。同センターにおいては、当方の研究内容にとって有益なアンケート調査がすでに実施されており、その活用により、自ら計画しているアンケート調査の一部が代替できる見通しである。そこで、当方が今後実施する予定のアンケート調査は、これらと重複せず、さらに深化した内容とする所存である。
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