研究課題/領域番号 |
23530355
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
川上 桃子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (30450480)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 後発工業国 / 台湾 / イノベーション / 電子産業 |
研究概要 |
本研究の目的は,台湾IT機器産業の事例分析を通じて,後発工業国企業によるイノベーションのメカニズムを実証的に明らかにすることである。初年度である2011年度には,以下の分析を行った。第1に,文献サーベイを通じて,経営学を中心とするイノベーションの類型論および破壊的技術論の知見を,国境を越えた産業内分業の分析視角である国際価値連鎖論の視点と結びつけて,新たな分析視角を構築する作業を行った。あわせて,ユーザーイノベーション論,オープンイノベーション論のサーベイを行い,後発国企業の事例への応用可能性についての考察を進めた。第2に,台湾企業による新市場創出型のイノベーションの事例として,ネットブック(小型・安価な携帯型パソコン)の創出過程をとりあげ,企業へのインタビュー調査とデータ収集を通じて,台湾企業がネットブックという新たな製品を創り出し,産業内分業を変革するにいたったプロセスを明らかにした。この分析の結果は,複数の国際学会で報告したほか,Kawakami[2011]("Innovating Global Value Chains: Creation of the Netbook Market by Taiwanese Firms",IDE discussion paper series No.325)として暫定的にとりまとめ,川上(近刊)にも分析結果の一部を取り込んだ。あわせて,2012年度以降の実証分析に向けた準備として,液晶テレビ,簡易ナビゲーション製造業の産業内分業の構造と,そのなかでの台湾企業の位置づけ,事業モデルの特色等についての調査も予備的に行った。以上の分析を通じて,後発国企業によるイノベーションの特質とその背景を産業内分業の構図の変容と結びつけて理解するという本研究の目的に向けて前進することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,順調に進捗している。イノベーションをめぐる事例研究を実施する上では,しばしば対象企業へのアクセスの確保が困難な課題となるが,幸い,ネットブックの事例分析に際しては,筆者がこれまで行ってきた台湾ノート型PC産業の調査での経験を活用することができ,キーパーソンへのインタビューを行うことができた。また,ノート型PCからは独立した製品カテゴリーとしての「ネットブック」について,企業レベルのデータが存在することが確認でき,その購入ができたことも,研究を進めるうえで大いに有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度以降も,当初の研究計画に沿って,分析枠組みの構築と事例分析を進めていく。当初から分析対象に掲げている液晶テレビ,簡易ナビゲーションデバイスについての事例分析を進めるほか,2011年度の研究のなかで明らかになった重要なポイントとして,液晶テレビや簡易ナビゲーションデバイスのコア部品であるシステムLSIの分野でも台湾企業が興隆し,イノベーションの推進主体となっているという事実の重要性が浮かび上がったことから,これを分析対象に盛り込む予定である。これらの製品,コア部品の事例分析を通じて,台湾企業によるイノベーションの特質,影響を明らかにしていく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者は2012年3月30日より,アジア経済研究所の海外調査員として台北・中央研究院社会学研究所での在外研究を開始した。これは,本研究のためのフィールドワークを実施するうえで大いに有益である。2012年度は,台湾,中国,日本での企業調査とデータ収集を中心に,研究費を使用する予定である。
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