研究課題/領域番号 |
23530355
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
川上 桃子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, その他 (30450480)
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キーワード | イノベーション / 国際価値連鎖 / エレクトロニクス産業 / 後発国企業 / 台湾 |
研究概要 |
本研究の目的は,台湾IT機器産業の事例分析を通じて,後発工業国企業によるイノベーションのメカニズムを実証的に明らかにすることである。近年のエレクトロニクス産業では,システムLSIへの製品知識の集約化・カプセル化が急速に進んでいる。また,システムLSIの専業ベンダーとして台湾企業が興隆し,中国市場を舞台とする活発な製品イノベーションの主導者となっている。このような展開を受けて2012年度の本研究では,以下の分析を行った。第1に,台湾のシステムLSI設計企業についての網羅的なデータ収集と,企業へのインタビュー調査を行い,その発展経緯や事業モデルの特徴について情報収集を行った。第2に,2011年度に予備調査を行った事例のなかから,台湾企業の果たす役割が特に注目される興味深い事例として,液晶テレビ産業に的を絞り,集中的なインタビュー調査を行った。具体的には,台湾のシステムLSIベンダー,テレビの受託生産企業,ブランド企業の協業関係に注目しながら,台湾のLSIベンダーがテレビ産業におけるイノベーションの重要な担い手となるにいたった過程を分析した。第3に,2011年度に続いて,台湾企業による新市場創出型イノベーションの事例であるネットブック産業についての分析をさらに進め,その成果を「後発工業国企業による新市場の革新的創出—台湾企業によるネットブック事業の分析」(『アジア経済』54巻1号,2013年)として発表した。また当研究会の成果の一部を盛り込んだ『圧縮された産業発展―台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム』(名古屋大学出版会,2012年)を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,おおむね順調に進捗している。当初より分析対象に考えていたネットブック,液晶テレビ,システムLSIについては分析が終了,ないし必要な題材の収集のめどがほぼ立った。また,データ購入を通じて,台湾の半導体設計会社の全体像を分析するための資料を入手できた。なお,当初,分析対象のひとつに考えていたPNDについては,産業の状況変化やインタビュー調査へのアクセス上の難しさから,参考事例として扱うほうが適切であると判断し,代わって2013年度には光学ドライブ向けシステムLSIの事例についての調査を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる2013年度には,以下の分析を予定している。第1に,液晶テレビの事例については,システムLSIベンダーへのさらに踏み込んだインタビュー調査を行うほか,システムLSIベンダーをとりまく台湾半導体産業の協業関係についても分析を深める。第2に,台湾のシステムLSIベンダーによる「製品知識をカプセル化したコアチップの提供」という事業モデルの原型となった事例として,光学ドライブのコアチップの事例についても調査を行う。以上の分析を通じて,台湾企業によるイノベーションの特質を明らかにし,ここから「後発工業国企業によるイノベーションのメカニズム」の解明を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
企業への集中的なインタビュー調査を行う。東京,中国(上海周辺および広東省),台湾および米国カリフォルニアでの調査を計画している。またイノベーション研究,東アジアのエレクトロニクス産業に関わる書籍の購入,企業データの購入,データ収集に関わる業務委託等も計画している。
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