本研究の目的は,台湾IT機器産業の事例分析を通じて,後発工業国企業によるイノベーションのメカニズムを明らかにすることである。近年のエレクトロニクス産業では,東アジアの後発工業国のなかから,製品レベル・コア部品レベルでのイノベーションを行い,既存の市場秩序に大きなインパクトを与える企業が出現している。2013年度は,以下の考察を通じて,台湾のエレクトロニクス産業のなかからイノベーションの担い手が現れた過程を実証的に分析した。第一に,光学ドライブ産業の事例研究を行い,台湾系SoC(system-on-chip)ベンダー,ドライブメーカーが急速に興隆して,従来の産業の主役であった日本企業を凌駕するにいたった過程を分析した。特に,台湾系SoCベンダーによる革新的な事業モデルの考案・導入の経緯について情報を収集した。第二に,前年度に続き,液晶テレビ産業の事例分析を進め,台湾のSoCベンダーがテレビ産業のイノベーションの重要な担い手となるにいたった過程を,これらの企業とテレビの受託生産企業,ブランド企業との協業関係に注目して考察した。第三に,在米の台湾人起業家へのインタビューを行い,シリコンバレーの台湾人起業家によるスタートアップの設立と台湾のハイテク企業の創業の間の相互誘発的な関係や,台湾のイノベーション・ネットワークのグローバル化について,集中的な調査を行った。
|