研究課題/領域番号 |
23530358
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
内藤 久裕 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00335390)
|
キーワード | 移民受け入れ / 社会保障 / 持続可能性 / 大規模重複世代モデル / アメリカ経済 / 日本経済 |
研究概要 |
平成24年度の研究では、アメリカにおける移民受け入れ拡大のシミュレーション分析を完成させた。このシミュミレーションモデルは、通常の大規模重複世代モデルに加えて次のような性質を持っている。(1)過去40年間アメリカで移民/本国人の比率が5%から18%まで、10%ポイント以上上昇した。この歴史的な経験にもとづき、倍の80年をかけてあらたに10%ポイント、移民/外国人比率が上昇する。(2)移民が、アメリカに滞在中には、所得税、社会保障税を支払う。(3)移民が20年以上社会保障税を支払った場合には、年金受給権が発生し、その場合移民が本国に帰ったとしても年金を受給することができる。(4)移民は、医療、教育などの公的に供給される私的財を、ネイティブとは異なった比率で消費する。(6)政府は、移民から得られる所得税、社会保障税を、政府支出に用いる。もし余剰がある場合は、それを公的に供給される私的財の増加あるいは、政府貯蓄として用いる。 以上のような特徴をもったモデルを用いて、つぎのような結果が得られた。(1)追加的な移民/本国人比率の10%ポイントの増加によって、現在すべての世代の厚生を増加させて経済をパレート改善できる。(2)その改善の程度を数量化すると、初期のGDP23%程度になる。(3)移民から得られる所得税、社会保障税を、移民受け入れにより効用の低下する本国人を保障するために使い、のこる余剰を用いて、政府貯蓄を増加させた場合、経済は110年程度でgolden ruleの状態に到着し、資本労働比率は102%増加する。これらの結論は、移民をアメリカ経済において追加的に受け入れる場合の便益が非常に大きいことを示している。この結果を論文とて専門誌に投稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「日本において移民受け入れ拡大が、経済システム、社会保障システムの持続可能性を引き上げるのか」を検証することがこの研究の最大の目的であった。そのために移民に関するデータが豊富にあるアメリカ経済に対して、移民受け入れ拡大の厚生効果をまず最初にシミュレーション分析した。この研究は完成し、経済学で最も権威のあるEconometrica誌に投稿したが、Rejectionを受けた。そのためこの論文を改訂し、他の権威ある学術誌に送るために追加的に6カ月を費やした。その結果日本経済に関するシミュレーション分析および実証分析が遅れてしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、(1)まずアメリカ経済のシミュレーションで得られた結果が日本経済でもあてはまるのかどうかを検証する。(2)アメリカ経済とならんで、移民受け入れ大国であるカナダの移民データをあつめ、同様の結果が成立するかどうか検証する。(3)移民受け入れによる、経済の他の側面への影響を、カナダのデータを用いて実証分析する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
これまではシミュレーション・理論分析を中心に行い、非常に良好な結果を出すことができ、結果を学術誌に投稿し、学会で発表を行ってきた。一方、実証分析に関して、カナダにおける移民データにアクセスするための共同研究をカナダのビクトリア大学の研究者と始めている。このデータは非常に重要なデータである。しかしこのための共同研究が25年度で終わらず、結果を出すことができなかった。また論文がrejectionを受けたため、改訂に時間がかかり、その結果日本経済のシミュレーションができなくなってしまった。 以上の理由により、研究を26年度も続けざるを得なくなった。 26年度は先に述べたカナダのビクトリア大学での研究者との共同研究を続け、カナダ政府が保持している移民データへのアクセスの許可を得ることに全力をそそぐ。このデータはカナダ政府がカナダの移民に関して系統的に収集している、特別データである。今年度の未使用額は、カナダの研究者との共同研究の費用、データにアクセスするための滞在費、およびRAを雇用するための費用として使用する予定である。また日本経済に関するシミュレーションも同時並行的に行う。
|