研究概要 |
本年度は, 1990年代後半の銀行による自己資本調達について分析を進めた.1997年度以降,不良債権処理に伴う自己資本充実の必要性が高まり,第三者割当増資による資本調達が急増した.銀行が自己資本充実を目的とした資本調達を行う場合,以下の問題が考えられる.貸出先企業が借入先を変更するスウィッチング・コストが大きければ,借入先金融機関が破綻して消滅した場合,借入の継続が困難になる恐れがある.このため,貸出先企業を対象に第三者割当増資を実施する場合,増資の引受に際して,対象株式の収益性以外の要因を考慮するかもしれない.もし,こうした貸出先を巻き込んだ増資が非効率な金融機関の延命を助長するのであれば,金融機関経営者への規律付けを損なうかもしれない.そして,借入先変更のスウィッチング・コストは,特に地方銀行などの地域金融機関で大きくなることが予想される.たとえば,1999年7月9日発行決議の新潟中央銀行の場合,246,506千株の発行に対して,割当先数は12,658(発行価格90円)にも及んでいる.これは,一般事業会社による第三者割当と比較すると,桁はずれに多い. 本研究の株価イベント・スタディの分析結果によれば,まず,一般事業会社を含めた全サンプルの場合,1990年代の第三者割当増資は,発行の取締役会決議時点で,株価に有意な正の影響を及ぼしてきた.ところが,銀行による第三者割当増資のみで分析した場合,株価への有意な影響を確認できなくなる. さらに,銀行による第三者割当増資発行決議時の超過収益率は,地方銀行の方が,それ以外の金融機関と比べて低くなっている.そして,銀行による第三者割当増資発行決議時の超過収益率は,自己資本比率が高くなると低くなる傾向にある.これらの分析結果は,上記で指摘した銀行による自己資本調達の際に予想それる問題が存在することを,示唆するものと考えられる.
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