研究課題/領域番号 |
23530366
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柳原 光芳 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (80298504)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 教育政策 / 教育の経済学 / シミュレーション / マクロ経済動学 / 人的資本蓄積 |
研究概要 |
本研究の目的は,義務教育から高等教育に至るまでの教育制度のあり方が経済成長に与える影響について,マクロ経済学的視点から考察し,政府間財政関係もとりいれた形での教育制度のグランド・デザインを行うことである。 本年度においては,義務教育の特徴をマクロ経済学のモデルに適合するように把握すること,そしてその上で義務教育と経済成長との関係について定式化を行うこととしていた。そこで,論文"Desigin of Education System"をまとめた。既存の研究では,教育の種類を,その供給主体に違いにより公教育と私教育と分類したものが多く見られた。しかし,多くの国では公教育が普遍的に,特に義務教育・初等教育段階において行われており,そのような教育の供給主体,つまり教育支出の負担のありかただけで,公教育と私教育の違いをとらえることは適切ではない。また,初等教育と中等教育というように,教育の段階をモデルに導入した研究も2,3見られるものの,それらの研究のいずれも,初等教育の有すべき特徴,すなわち義務教育の目的を十分に考慮した上で定式化してはいない。したがって,論文"Desigin of Education System"は,義務教育の目的をとらえた上で,政府が国内総生産を最大化する形で教育を行う状況を,簡単なモデルとして定式化をしたところに特徴がある。 この研究により,最適な義務教育水準,高等教育水準が明示的に求められただけでなく,最適な義務教育期間を求めることも可能となった。これは,国の違いによって教育で求められるべき水準,またその教育期間の長さの違いがあることを,理論的に示すことができたことを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最大の目的は,義務教育の特徴を把握した上で,それを経済学のモデル,特にマクロ経済動学モデルに導入するところにある。そのため,経済学において教育がどのようにとらえられているかについて把握すること,さらに教育学で義務教育がどのように位置づけられ,また捉えられているかについて整理を行うことが本年度の第1の課題であった。 そこでまず,前者については,勁草書房『公共経済学研究V』において「第1章 経済成長理論において人的資本蓄積はどのようにとらえられているか」の執筆を担当するかたちで,研究をまとめた。このために,マクロ経済学においてこれまでの既存研究で考えられてきた人的資本蓄積関数をその特徴から整理した。またそこでは,その関数が何を意味するかについても概観している。 一方後者については,教育思想の研究書をまとめる形で,義務教育の特徴について整理をおこなった。そのエッセンスについては,論文"Desigin of Education System"の中のモデルに組み込まれている。この研究については,国内および海外でのワークショップにおいてそれぞれ1度ずつ,報告がなされている。 なお,本来はこれらに加えて,教育関係者への聞き取り調査と,モデルに基づくシミュレーション分析を行う予定としていた。しかし,上の論文"Desigin of Education System"の作成に多くの時間を使ったこと,またワークショップの報告においてさまざまなコメントを得ることができ,モデルがさらに発展する可能性が生まれたことにより,シミュレーション分析を延期することとした。ただし一方で,当初計画ではなかったものの,この理論研究を実証面からサポートするために,戦後の教育財政,特に地方財政についてデータを整理してきている。 以上のような状況から,本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の目標は大きく分けて2つである。1つはこれまでの研究を完成させることと,もう1つはその研究を踏まえて研究をより発展させることである。 まず,前者については,論文"Desigin of Education System"を,国内外のワークショップで得られたコメントをもとに,さらに修正を加えてより完全なものとする。そこで一定の完成が見られた上で,それに関するマクロシミュレーション分析を行う。そのシミュレーションは主に日本を対象とすることを計画している。その理由は,これまでの日本の教育システムのあり方に評価を与えるためである。そのような評価は,これまでの教育財政に関するデータとの対照をおこなうことで可能となる。 次に,後者については,高等教育の特徴をより適切に描写したモデルを構築すること,および地方自治体の財政外部性を考慮した,地方自治体の公教育を導入したモデルを構築することである。すなわち,論文"Desigin of Education System"は主として義務教育の特徴をとらえることにその分析の中心をおいている。それにつけ加える形で,高等教育のはたらきを明示し,教育システム全体を把握できるモデルの構築に努める。 また,地方自治体の教育活動をモデル化することは,今後の地方分権のあり方にも一定の示唆を与えることが期待される。その際にも,これまでの教育にかかわる地方財政データが有益であると判断されることから,今後もその整理については継続的に行っていくことを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
ここでも,研究費の使用についてはその性格から大きく2つに分けられる。1つはこれまでの研究にかかるものと,もう1つは今後の研究にかかるものである。 まず前者については,論文"Desigin of Education System"を海外雑誌に投稿するため,外国語論文の校閲に関する費用,および研究成果投稿料に研究費の使用を予定している。また,国内外の学会での報告を行うために,調査・研究旅費として研究費を使用する。 次に後者については,現実的な視点からあたらしい知見を得る必要があることから,聞き取り調査を行うための専門的知識の提供にかかる費用,ならびに資料提供・閲覧に関する費用に研究費を使用する予定としている。また,聞き取り調査の際には必要に応じて,会議費ならびに調査・研究旅費の使用が考えられる。これらに加えて,理論研究を実証面からサポートするために,本年度に引き続き,地方財政のデータの整理を行っていく。そのために,研究補助費に研究費の使用を予定している。
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