研究課題/領域番号 |
23530366
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柳原 光芳 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (80298504)
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キーワード | 教育政策 / 教育の経済学 / シミュレーション / マクロ経済動学 / 人的資本蓄積 |
研究概要 |
本研究の目的は,義務教育から高等教育に至るまでの教育制度のあり方が経済成長に与える影響について,マクロ経済学的視点から考察し,政府間財政関係もとりいれた形での教育制度のグランド・デザインを行うことである。 本年度においては,昨年度イタリア・カターニャ大学での公共経済学に関するワークショップで報告を行った論文”Desigin of Education System”を,国内で行われた研究者ならびに政策担当者の出席する研究会において,「教育システムのグランド・デザイン」という形で再度報告を行った。それを踏まえて,さらなる論文の改訂を行った。本論文の特徴は,義務教育の目的を考慮した上で,国家の視点から教育のシステムの定式化を行った点にあった。その特徴をより明確にすべく,国家の特徴を表す種々のパラメータの差異が教育システムのありかたにどのような変化をもたらすかについて,より詳細に分析を行った。この研究により,最適な義務教育水準,高等教育水準と最適な義務教育期間が,国家間でどのような違いを生じさせるかについてより明らかになった。 本研究と並行し,次年度に行うことを計画している政府間財政関係を導入した教育制度のマクロ理論構築に関して,いわゆる財政外部性の先行研究の整理を行った。これにより,次年度に構築を予定する教育の地域間財政競争の静学理論モデルの位置づけが行えたとともに,この研究の意義をより明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の本年度の目標は,義務教育の特徴,果たすべき役割を理解した上で,さらに高等教育の特徴,役割についても触れ,それらを同時に扱う経済学のモデル,特にマクロ経済動学モデルを構築するところにあったといえる。その目標の達成のため,義務教育に特に焦点をあてた論文について,より詳細に分析を行うことができたことは,目標の半分は十分に達成されたといえる。また,教育のマクロ動学的なシミュレーションについても,「教育システムのグランド・デザイン」とは間接的に関係した研究ではあるが,学会誌に人的資本のマクロシミュレーションの研究を掲載できたことで,一定の成果を見ることができたといえる。 さらに,財政外部性の視点から政府間財政関係を導入した教育制度の理論構築については,分析の含意を得るまでには到達はしていないものの,その基本となる枠組みの構築については既に終えているため,次年度の研究課題を先行している点では,予定をやや上回っていると言える。また,これらの理論研究を実証面からサポートするために行ってきている,戦後の教育財政,特に地方財政についてデータの整理についても,継続的に行っている。 ただし,高等教育の特徴を捉えることに焦点を合わせた研究を実施できていないという点では,本年度の目標を完全に達成したとは言い切れない。また,昨年度でも持ち越した課題であった教育関係者への聞き取り調査については行うことができなかった。これは 「教育システムのグランド・デザイン」が未だ完成をしていないため,教育関係者への聞き取り調査の土台が完成していないことによるものである。 以上のような状況から,本研究は部分的には進展に遅れが見られているところはあるものの,おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の目標は大きく分けて3つからなる。1つめはこれまでの「教育システムのグランド・デザイン」の研究を完成させ,さらにシミュレーション分析を行うこと,2つめは財政外部性の視点から政府間財政関係を導入した教育制度の理論構築を行うこと,そして最後は教育関係者への聞き取り調査を行うことである。 まず,前者については,研究の核となる部分は完成しているため,まずその数値シミュレーションを行うことでより直感的に理解しやすい,日本の教育システムのあり方に一定の評価が行える情報を提供することを目指す。そして,理論部分に拡張可能性が潜在的に存在していることから,高等教育の特徴をより反映する形で理論のさらなる拡張を図る。次に,後者については,財政外部性を考慮したモデルを構築することで,地域的な視点から教育の制度設計の議論を可能とすることを目指す。それに関わり,今年度においてこれまで行ってきた教育にかかわる地方財政データの整理を終わらせることとする。最後に,これらのモデルに関して客観的な評価を求めるべく,教育関係者への聞き取り調査を本年度は行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用については上の研究の推進方策に基づき,その内容から大きく以下の3つの部分に分けられる。 まず「教育システムのグランド・デザイン」の研究については,論文の海外雑誌への投稿,国内・海外での学会・研究会などでの研究発表を行うため,外国語論文の校閲に関する費用,研究成果投稿料,および調査・研究旅費に研究費の使用を予定している。次に財政外部性を考慮したモデルの構築に際しては,地方財政を専門とする研究者のワークショップが国内で活発に行われていることから,そこでの報告に関する調査・研究旅費に研究費の使用を予定している。また,本研究は海外雑誌への投稿も目指しており,そのための校閲に関する費用,研究成果投稿料も予定している。最後に,教育関係者からの聞き取り調査を行うための専門的知識の提供にかかる費用と,地方財政のデータの整理を行っていくために必要とされる資料提供・閲覧に関する費用,そして研究補助費への研究費の使用を予定している。
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