研究課題/領域番号 |
23530368
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研究機関 | 大阪学院大学 |
研究代表者 |
齊藤 愼 大阪学院大学, 経済学部, 教授 (70093565)
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キーワード | 財政悪化 / 地方債 / 地方団体の「選好」 / 地域特性 |
研究概要 |
地方団体の財政状況を決定する要因を数量的モデルの手法を活用して明らかにすることが最終的な狙いである。本研究では、地方団体の財政運営に関する「選好」が異なるという仮説の下に、個別団体をグループ化する。その要因として、地域ごとの特性、地方団体の規模、過去からの財政運営の歴史、政治的要因等を想定している。もちろん、地域的条件や高齢化比率などの客観条件を考慮した上で、それでも財政状況に「選好」が影響するかどうかを解明する。 平成24年度においては、昨年度に引き続き、ヒアリングおよびケーススタディを研究の中心とし、並行して、その後の研究に必要なデータの整備を進めてきた。今年度は、日本で財政状況の悪い地方自治体の多い北海道を対象とし、特に唯一の財政再建団体である北海道夕張市に関してヒアリングを行った。夕張市の財政担当者に直接ヒアリングし、固有の事情を伺うとともに、北海道の他市町村の財政事情に詳しい有識者からもヒアリングを行い、他地域・他団体と異なると思われる要因を一部抽出した。夕張市に関しては、財政規模に対して過大な投資が行われ、期待された成果が挙がらず、歳入増加に繋がらなかったことが指摘できる。 今年度で、日本で財政状況のもっとも悪い北海道および大阪のヒアリングを終え、それぞれの歳入・歳出の問題点を抽出した。また、並行して、「平均的な地方自治体」と考えられる兵庫県および兵庫県内市町村に関する財政状況の調査およびヒアリングを開始した。瀬戸内海側に規模の大きな都市が複数存在する一方で、その他の地域には規模が小さく財政状況の苦しい市町村が多く存在した。「平成の大合併」により、市町村数が半減し、経常収支比率の低下に見られるように、財政状況が改善したかに見えるが、阪神・淡路大震災後に発行した公債費の減少やそれに伴う基準財政需要額の減少など、さまざまな課題を抱えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ある地方団体の財政状況が良好で、一方で、他の団体の財政状況が悪いのかの要因をケーススタディの手法を活用して明らかにし、その後数量分析する、ことを研究目的としているが、研究の進展がやや遅れている。研究の達成度がやや遅れている理由は、最終目的であるモデル作成に関してであり、前半の個別団体を対象としたヒアリング・ケーススタディおよびデータの蓄積は順調に進展している。 数量モデル作成がやや遅れている理由を、大別すると、以下の3点にあるが、最終年度に研究を集中し、期間内の完成を目指す。 地方自治体の財政状況に影響を与える「選好」を現実的に特定化する際に、多くの要因が関連してくるため、どこまでの要因が不可欠なのかに関しては試行錯誤に頼らざるを得ないので、研究に時間がかかる。これまでのヒアリングとケーススタディにより多くの要因が抽出されてきたが主要な要因を限定することが難しい。しかし、この部分が本研究の大きな特徴であり、これまでなされてきた他の研究との違いであるため、試行錯誤の過程が重要と考えられる。 このため、以下に述べるように、当初予定を一部変更した。当初予定では、財政状況の悪い自治体と良い自治体を対象としてヒアリング・ケーススタディを実施することにしていたが、「平均的」な財政状況の自治体として兵庫県および県内市町村を対象に加えることにした。 これまでの2年間で財政状況の悪い大阪と北海道の地方公共団体を対象としたヒアリング・ケーススタディを行い、並行して「平均的」と考えられる兵庫県を対象とした研究を行いつつあるが、個別要因が多いことが分かり、一般的なモデル作成に繋がりにくい。制御する環境変数を増やして対応することも視野に入れモデル作成を考察したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に引き続きヒアリングおよびケーススタディを行う。23年度にヒアリングした財政状況の悪い地方自治体、そして24年度に行った、「平均的」な財政状況の地方自治体へのヒアリングを継続しつつ、最終年度である今年度は財政状況の良い地方自治体へのヒアリング・ケーススタディを行い、そこから得られた知見を元にして、実証分析を行うパイロット・モデルの作成を先行し、その後に最終的なモデルの作成を行う。 個別地方団体の財政状況推移を説明する際に用いられる説明変数として地方団体の「選好」を導入することが本研究の特徴であり、これまでの研究では試みられていない手法である。本年度の研究では、まず対象団体や対象期間を限定したパイロット・モデルを構築し、その後に最終的なモデル構築を行う。当初計画では、財政状況の良い地方団体と悪い地方団体の双方を比較することにしていたが、新たに「平均的」な財政状況の地方団体を加えることにした。さらに、これまでのヒアリング・ケーススタディから、財政状況に関する変数のみではモデル構築が難しいことが分かってきた。このため、地域環境条件や人口条件などの多様な外生的条件をコントロールする必要がある。パイロット・モデルを財政状況に応じ3パターン作成し、その後に最終的なモデルを推計するための膨大なデータ整備が必要である。なお、ヒアリングおよびケーススタディもこれまで選定していない団体を対象として継続予定である。「平均的」地方団体として兵庫県および兵庫県内市町村を対象としてきたが他の地方団体も加える予定である。また財政状況の良い地方団体として大阪府高槻市等の地方団体を想定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度に当たる平成25年度においては、①これまでで行っていない地方団体に対するヒアリングおよびケーススタディの継続、②パイロット・モデルの作成、③パイロット・モデルおよび最終的なモデル作成に必要なデータ入力、④最終的なモデルを完成させ、研究全体を完成させる。 このために必要な研究費は、以下の通りである。ヒアリング継続のために、旅費が必要である。平成25年度では関西圏の地方団体以外の地方団体もヒアリング対象に加える予定である。またケーススタディの継続およびパイロット・モデル作成のため、大容量のデータを扱うことのできるパーソナルコンピュータを購入予定である。データ入力およびデータ・ベースの整備に関しては、膨大な資料の収集・整理のために、謝金等、およびその他経費が必要である。特に、最終年度は研究完成のため、大量のデータ収集とデータ入力を行うため、ほぼ10ヶ月間のデータ入力・整備を想定している。また、その他経費には、ソフト代金、研究資料購入、通信費を計上している。研究資料としては、現在保有していない地方財政関係の統計書購入予定であり、コンピュータ・ソフトとしては、本年度はモデル作成に必要とされるデータ解析のためのソフト等の購入を予定しており、ヒアリング・ケーススタディの連絡のため通信費が必要である。
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