研究課題/領域番号 |
23530370
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 章 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (10294399)
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キーワード | 少子高齢化 / 人口減少 / 年金改革 / 消費税 / パレート改善 / 世代重複モデル / ライフサイクルモデル / シミュレーション分析 |
研究概要 |
人口減少・少子高齢化が急速に進展するわが国において、抜本的な公的年金改革は喫緊の課題となっている。本研究課題では、有力な年金改革案のひとつである「公的年金は基礎年金のみに限定し、その全額を消費税で賄う」という改革案に焦点を当て、この改革案が経済厚生および世代内・世代間の所得再分配に与える影響について定量的な分析を行った。世代重複モデルによるライフサイクル一般均衡モデルを用いたシミュレーション分析の結果、この改革案は、長期的に資本蓄積を増加させ、経済成長を促進し、将来世代の厚生を大幅に改善するけれども、その一方で、改革の移行過程において、追加的な消費税の負担(いわゆる「二重の負担」)を強いられる世代(特に1950年生まれ辺りの世代)の厚生は悪化することが示唆された。 そこで、改革によって影響を受ける全ての世代の厚生の変化を総合的に考慮して、経済厚生全体への改革の影響を評価するために、仮想的な政府であるLSRA(Lump Sum Redistribution Authority)を導入して分析を行った。LSRAを導入することにより、改革により厚生が改善した世代から改革により厚生が悪化した世代に対して、資金移転を行うことにより、全体として経済厚生が改善したのかどうかを調べることが可能となる。シミュレーション分析の結果、上述の年金改革について世代の間での資金移転(LSRA transfers)を考慮した場合でさえもパレート改善の達成は難しいことが示された。これは、この改革案に伴う「二重の負担」のために、移行世代の厚生の悪化がかなり大きいためである。その一方で、この改革案は将来の経済成長を大幅に促進し、将来世代の厚生を大きく改善していることから、将来世代の厚生の改善を重視する場合には、この改革案を実行することが望ましいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
少子高齢化が急速にするわが国において、公的年金改革は喫緊の課題となっている。今年度は、有力な年金改革案のひとつである「公的年金は基礎年金のみに限定し、その全額を消費税で賄う」という改革について、世代重複モデルによるライフサイクル一般均衡モデルを用いてシミュレーション分析を行った。これらの研究成果は、査読付きの国際的学術雑誌であるThe Japanese Economic Reviewや財務省の「フィナンシャル・レビュー」に掲載が決定するなど、高い評価を受けている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、ライフサイクル一般均衡モデルを用いたシミュレーション分析の手法を採用してきた。これまでの先行研究では、政府機関による人口の将来推計のデータなどに基づいて、モデルにおいて将来の人口動態が外生的に設定されている。しかしながら、本来、将来の人口動態は各家計の子供の数の選択如何によって変化するはずであり、出生率を内生化したモデルに拡張するべきである。各家計が最適な子供の数を選択できるようにモデルを拡張し、将来の人口動態が変化しうるモデルにおいて政策の効果の分析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のように、新しい人口内生モデルを構築した上でシミュレーション分析を行う予定である。このため、計算速度の非常に速いパソコンを購入する予定である。また、ある程度新しい分析結果が出た時点で、カリフォルニア大学バークレー校を訪問し、Alan Auerbach教授とRonald Lee教授からコメントをいただく予定である。
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