研究課題/領域番号 |
23530372
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
井田 知也 大分大学, 経済学部, 教授 (50315313)
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キーワード | 国際研究者交流 / スウェーデン / 地方分権 / 租税外部性 / 足による投票 |
研究概要 |
一般的に,地方分権にはTieboutの足による投票仮説では「効率性を向上させる」,Zodrow and Mieszkowski=Wilsonの租税外部性仮説では「非効率性を促進する」と相反する評価がある.本研究の目的は,両仮説の要素を組入れた分権経済モデルに基づき,地方分権に伴い優位となるのは効率性と非効率性のどちらの方かを理論・実証の両面から分析し,我が国が地方分権を推進する上での検討課題を明示することにある.計画した研究事業のうち平成24年度は,地方分権に伴い支配的となる効果に関する①理論分析と②実証分析を実施した.まず,①はConway and Houtenville (2001 National Tax Journal)を拡張して,地域間の移住者数と各地域の特性の因果関係について理論的に示した.具体的には,観測不可能な各地域住民の間接効用関数の格差を,地域間移住者数に変換した命題を導出している.なお,平成25年度には,本命題について実証分析を行う予定のため,この理論分析の精度は,さらに高める必要があると考えている.次に,②は前年度の理論分析で導出した,Brulhart and Jametti(2006 JPubE)の発展モデルに基づき,支配的となる租税外部性と地域数に関する命題を,スウェーデンの地域データを用いて検証した.なお,Brulhart and Jametti(2006 JPubE)に含まれる問題点,つまり,理論モデルの想定と現実の実証環境の乖離は,分析対象を変更することで対処している.その結果,前年の試験的推計と同様に,彼らとは正反対の帰結を得た.すなわち,地方政府の税率を非効率に引下げる水平的租税外部性の方が支配的となり,さらに統計的な有意性も高い結果となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,平成24年度までに共同研究者であるWilhelmssonスウェーデン王立工科大学教授を,大分大学に招聘して日本の地域事情の把握してもらう予定であった.しかし,ご家族の事情により,それを実現することはできなかった.ただ,平成24年度に実施した国際学会報告(WEAI2012)において,各国の研究者から今後の改訂に有益なコメントを多数受けることができ,それを基に同教授と建設的な議論ができた.そのため,代替的な方法であるが,全体的には共同研究は進展していると判断する.なお,平成25年度はWilhelmsson教授も来日予定であるため,最終的な研究目標は達成できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の主な研究活動の予定は,以下の通りである.第1に,共同研究者であるWilhelmsson教授を,大分大学に招聘して研究会を開催する.この研究会での日本の研究者との議論を通じて,スウェーデンを対象とした本研究の成果を,我が国の政策提言に反映させるように努める.第2に,理論分析として足による投票仮説を中心に,支配的な地方分権の効果に関する実証分析を行う.第3に,広報活動の一環として,昨年度の国際学会報告(WEAI2012)で得たコメントを基に改訂した論文を,国際的学術雑誌に投稿する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の主な研究費の使用計画は,次の通りである.第1に,旅費を用いて,学会・研究会に参加して専門家との意見交換を行い,研究成果の改訂に努める.第2に,旅費と会議費を用いて,共同研究者であるWilhelmsson教授を大分大学に招聘して,前述の研究会を開催する.第3に,前述の理論分析と実証分析を効率的に遂行するために,物品費を用いてコンピューター等を購入する.第4に,謝金費に基づきこれまでの研究成果を英文校閲にかけて,国外学術雑誌に投稿する.
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