分析対象の地方分権システムには、Tieboutの足による投票仮説では「効率性を向上させる」、Zodrow and Mieszkowski=Wilsonの租税外部性仮説では「非効率性を促進する」と相反する評価がある。本研究の目的は、両仮説の要素を組入れた分権経済モデルに基づき、地方分権に伴い優位となるのは効率性と非効率性のどちらの方かを理論・実証の両面から分析することにあった。 平成25年度は地方分権に伴ない支配的となる効果の命題に関して2種類の実証分析を行った。第1の実証分析は、前年度に観測不可能な各地域住民の間接効用関数の格差を地域間移住者数に変換することから導出した命題を、スウェーデンの地域データに基づき検証した。その結果、同じ条件であれば所得税率の低い自治体に移住が生じるなどの結果を得ることができた。 第2の実証分析は、前年度に実施したBrulhart and Jamettiの発展モデルに関するスウェーデンの地域データに基づく実証結果を、国際学会等で得た指摘に基づき再検証を行った。その結果、我々が指摘するようにBrulhart and Jametti論文には依然として理論モデルの想定と現実の税制との乖離という問題は残るが、前年の推計結果とは異なり彼らと同様の帰結、すなわち、地方政府の税率を非効率に引き上げる垂直的租税外部性の方が支配的になり、統計的な有意性も高くなった。 全期間を通じた研究を統括すると、先行研究では不確定であった支配的な租税外部性に関しては確認することができた。しかし、それを踏まえた上で、両仮説を反映させた統一的な分権経済モデルに基づき、どちらの効果が優位となるかまでは示すには至らなかった。そこで、代替的な分析として同一のスウェーデン地域データに基づき両仮説を同時に検証したところ、各効果は併存することは実証できた。
|