研究課題/領域番号 |
23530382
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
寺井 公子 法政大学, 経営学部, 教授 (80350213)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際公共財 / 国際協約 / 環境保護条約 / シグナリング・モデル / 時間的不整合性 |
研究概要 |
環境保護政策や安全保障政策のように、政策の効果が自国だけに留まらず、国境を越えて他国にも影響を及ぼす国際公共財については、外部効果を内部化するような協力的供給を事前に国家間で約束することで、パレート改善が期待できるとしても、事後には、国際協約から離脱し、相手国の政策努力にただ乗りすることが、各国の最適な行動となる。特に国際社会においては、各国の利害からまったく独立した、強力な第3者機関を設立することが難しいので、離脱を阻止し、協力解の履行を強制することは困難である。本研究は、このような事前の国家間の協力の合意と、事後の遵守との間の時間的不整合性の問題に注目した。 各国が対称的で、国際公共財からの便益が完全代替的である、という仮定のもとに、政治家の外交上のパフォーマンスが、能力のシグナルとして再選確率を上昇させることを表現するシグナリング・モデルを構築した。そのうえで、多くの国際協約が設置している資金メカニズムが、事後的に国家間所得移転を行うことで、各国の政策努力がパレート改善につながることを可能にするだけでなく、約束を遵守しなければ移転が実行されないことで、コミットメント・ディバイスとしての機能も果たしていることを示した。このように、国際協約が資金メカニズムを備えており、また国際協約への参加と協力の実現が国内選挙で評価されるならば、協力解の履行が実現されることを明らかにした。 このような結果は、国際合意の遵守を促すうえで、資金メカニズムが貿易制裁に代わる有効な手段であることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本分析では、各国が対称的で、国際公共財からの便益が完全代替的である、という仮定のもとではあるが、国内の選挙過程と資金メカニズムという二つの要素が、国家間協力の約束の履行を実現することが示された。このように国内の政治過程と国際交渉の成功との関連を示した理論分析は、これまであまり蓄積されていない。政治経済学的アプローチによって、協力解の履行という経済学的に重要な課題に対する示唆を得たことで、今後の拡張のもととなる基本的モデルが構築できたと考える。 また、現段階での結果を"Financial Mechanism and Enforceability of International Environmental Agreements"というタイトルで論文にまとめ、Environmental and Resource Economicsに投稿し、再投稿を経て、マイナーな改訂で受理可能という、編集者からのリプライを得た。このような点からも、分析は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、国際公共財からの便益の代替性に関する仮定を一般化し、完全代替以外のケースについても考察する。国際公共財からの便益の代替性が高いほど、他国の政策の効果にただ乗りするインセンティブが強まると予想される。国際公共財供給の便益が補完的な場合には、ただ乗りのインセンティブが緩和され、国家間の自発的協力が実現する可能性がある。環境問題の分野では共通する水域への排出規制、それ以外の分野では伝染病予防、テロ対策などが補完性の高い国際公共財の例として挙げられ、実際に国際協力が実現している例も観察される。このような実例と符合する理論モデルの構築を試みる。 また、国家間の対称性に関する仮定を一般化し、初期賦存量や技術が異なる国家についても、基本モデルから導かれた含意が当てはまるかどうかが、新たな関心である。特に課税競争モデルに環境規制緩和競争を組み入れ、各国(あるいは各地域)が資本課税軽減と環境規制緩和という二つの政策手段によって他地域から資本を誘導し、その結果資本所得と労働所得が変化するとき、それぞれの国がどちらの政策手段に依拠することになるかを求め、経済的帰結を示すことは、環境保護条約締結交渉における先進国・発展途上国間の利害対立緩和のための、新たな示唆となることが期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本モデルの拡張と、分析結果を論文にまとめ、発表するために必要な経費に、研究費を使用する計画である。具体的には、関係図書・資料の収集、データ処理・文書処理に必要なソフトウェアの購入、国内外で開催される学会・カンファレンスで報告するため、あるいは情報を収集するために必要な旅費・学会参加費(日本財政学会大会、カリフォルニア大学アーバイン校・クィーンズ大学で開催される公共経済学分野のカンファレンスへの出席を計画している)、英語校正サービスの利用、投稿料などに、研究費を充当する予定である。 なお、次年度に使用する予定の助成金として、226,980円を計上している。これは、平成23年度が始まってしばらく経過してから、所属する法政大学からの研究費供与額が増加する(本補助金間接経費相当)ことが判明し、そちらも併せて経費に充当したためであり、研究計画の変更が原因ではない。
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