本研究の目的は、企業の業績が変化した時の従業員の処遇、株主に対する還元がどのように変化するかを実証的に検証することであった。さらに、近年のコーポレート・ガバナンスの変化によって、これらの行動が変化しているかどうかを検証した。まずは実証分析を行う為の基礎的なデータセットの整備を行った。具体的には東京証券取引所一部上場企業のうち、1988年から2011年まで継続的にデータを観察できる企業を対象にデータを収集した。これらの企業について、財務データ、所有構造に関するデータおよび雇用に関するデータを収集し、データセットを構築、整備している。結果として約500社のデータ得ることができた。データは日経NEEDS-FAMEおよび政策投資銀行の財務データを中心に収集した。 これらのデータを用いて、企業の配当削減と雇用削減の関係を分析した。外国人持株比率が高く、取締役改革を行った企業(変革企業)と、それ以外の企業(伝統企業)では行動が大きく異なっている。伝統企業では、雇用を維持する傾向にある一方で、改革を行った企業では株主の利害を重視する傾向にあることが示されている。企業がどのような目的をもって経営されているかを実証的に示すことは難しい。しかし、今回の結果は外国人株主の増加によって、株主価値を重視するようになったという考えと整合的である。また、取締役改革により、雇用のリストラクチャリングが機動的に行われるようになっているようである。
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