研究課題/領域番号 |
23530388
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
飯田 善郎 京都産業大学, 経済学部, 教授 (50273727)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 所得格差 / 所得再分配 / 実験経済学 / 行動経済学 |
研究概要 |
本研究は格差問題に対する高い社会的関心がありながら所得再分配の是正が進まない現状を鑑み、人々が特に不満を感じる格差が誰との何を原因とした格差か、そしてそれを改善するためにどれほどの費用負担に応じるものであるのかをアンケートと経済実験によって明らかにしようとするものである。本年度は当初計画のアンケートを結果的に行っておらず、いくつかの経済実験を通して、アンケートの設問のベースとなる人々の格差に対する意識を120名程度の被験者実験と実験に伴うアンケートによって精査している。実験はまず知能テストと単純作業という能力と努力によって報酬に差が付くタスクを実験室で被験者である学生に行わせ、実際についた差をどれほど能力と努力の差によるものと認識するかを確認している。これは社会人などを対象にしたアンケート調査においても実際にタスクをさせて、その対比から現実の格差の要因の認識を回答させることを意図したものであるが、検証の結果、タスクの差による被験者の能力か努力かの認識の差はそれほど明確なものではなかった。これは当初期待していた結果と異なり、より精査が必要となっている。また、タスクによって生まれる報酬の差をどの程度まで再分配したいと考えるかをまず個人で選択させ、ついで複数の被験者で合意するまで議論させるという実験を行っており、ほとんどの被験者がロールズ的な不平等回避を受け入れず、7割程度が非常に低い所得になる可能性を避けるために5%の平均報酬の低下を受け入れること、また5名で構成されるグループでの全員一致の意志決定においてはすべてのグループがその選択をすることが示された。この5%が現実の社会で暮らす人々が所得格差回避のコストとして受け入れる値といえるかが一つの焦点であるが、この結果は実験において提示される再分配プランにも依存するため、異なる設定の下でのさらなる実験結果の蓄積が必要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた社会人へのアンケートを行っておらず、その点で遅れている。これはアンケートの結果によって回答者に与える報酬を変えるなどのかたちで疑似的な経済実験をしたいと考えていたが業者がこれに対応できず、事前に被験者実験によって質問の精査をしておく必要性が高まったこと、またその被験者実験において当初期待していた通りの結果とならず、予定以上の実験が必要となったことによる。これらはしかし追加的な実験をすでに予定しており、また先行研究の手法を参考に定額の謝礼によるアンケート形式でも相当の信頼性を持って個人の選好を調べる方法についても検討がすすんでおり、重大な障害にはならないと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度においては学生を被験者とした経済学実験によって要因別の格差の不満の程度と是正のために負担する費用の関係をさらに精査する。また、それが社会人を対象としても見られるか、そしてそれがどれほど投票行動につながりうるかを検証するために、インターネット上のアンケート調査を行う。社会人を対象としたアンケートの目的の第一は被験者実験という厳密な管理の下ではあるが限定的な状況で観察された格差に対する態度が社会人のそれと対応しているかを検証すること、第二は学生を被験者とする実験環境においては再現できない参照集団選択の動機や社会人が現実の社会環境の中で認識する所得格差の要因についての知見を得ることである。アンケートにおいてはネットの画面上でできる幾つかのタスクを実際に回答者に課し、回答者が感じる格差の原因をそれに引きつけて答えさせることで、被験者実験とアンケート調査の対比を行う。これは仮想的な質問のもとでは回答者が何を想定して回答するかあまり明確でないというアンケート調査の問題を補うことを目的とする。人々が不平等回避のために一定のコストを負担する可能性があることは過去の研究においても指摘されているが、このコスト負担が、どの程度再分配を政治に求める投票行動という形で現れるかは明らかではない。人々のコスト負担の意識と投票行動がつながっているかの意識についても調査することで、格差が社会問題化していながら政府に所得再分配政策の拡充を求める社会的関心が薄いのはなぜかについての知見を獲得したい。また25年度はそれまでの知見を踏まえ、第一にここまで生じうる実験・アンケートの調査不足を補うこと、第二にさらに現実の状況に即した質問と実験を計画・実行することで、どの格差に取り組むことがより社会的な利益となるのか、またそれが現実にはなかなか実現しないのはなぜか、という現代社会の課題に一定の回答を導きたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
24年度は100名程度の被験者実験を計画する。実験インストラクション印刷など消耗物品に10万円、被験者雇用管理業務を行う大学院生やPDの雇用費、そして被験者への謝金など経済実験経費として65万円、アンケート調査の業者委託費として85万円、調査旅費、学会発表のための旅費として20万円を計画する。25年度も同様の出費項目となるが、それぞれの項目について、実験回数やアンケートの項目は減少すると考えられ、消耗品等で5万、経済実験経費とアンケート経費がそれぞれ40万円と25万円、成果発表に関する印刷代等で20万、調査・発表旅費として20万円を計画する。
|