研究課題/領域番号 |
23530388
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
飯田 善郎 京都産業大学, 経済学部, 教授 (50273727)
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キーワード | 所得格差 / 経済実験 / アンケート調査 |
研究概要 |
格差問題に関する高い社会的関心が続く中で是正策が進まない現状を鑑み、1.人々が特に不満に感じる格差が何を原因とした格差であるのか、 そして 2.それを改善するためにどれほどの費用負担に応じるのかを明らかにする、という研究目的に沿い、学生を対象とした経済実験と社会人を対象としたアンケート調査を行なった。経済実験は他の実験研究との比較が容易になるように、ディクテーターゲームに沿う形のものを設計し、配分者と被配分者の役割を、単純作業の反復と知能テストの2種類のタスクによって決めることで、努力と能力を原因とする格差によって、格差に対する不満に違いが出るかという点を確認し、また配分者と被配分者の両方に希望する再配分額を尋ねることで、配分者と被配分者がそれぞれ格差から感じる不効用の検証を試みた。配分者にとって被配分者への再配分は強制ではなく、自発的な配分額の表明は格差への不効用の現れと解釈できる。また被配分者にとっては完全平等になる額までの配分を求めるのが合理的であるが、そうしない分は格差を許容する程度と解釈できる。被験者実験において、2種類の格差要因による配分者の再配分額に有意差はなく、また被配分者が求める配分額にも有意差は確認されなかった。同様の実験を格差問題が日本以上に問題とされる中国で行なったところ、結果は同様ながら、中国の配分者は日本の配分者よりも統計的に有意に高い額を配分し、格差への不効用を強く示す結果となった。これらは学生に対する調査であるが、社会人の認識を確認するため、これらの実験に近い状況を想定してもらった上で自分が自分の所得から再配分をする側、あるいは再配分を受ける側であるならそれぞれどれだけの額を希望するか尋ね、1700名程度のサンプルを得た。結果、格差の要因が努力と才能のどちらが原因でも希望額に有意差が見られないという、被験者実験と同様の結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験とアンケート調査により、相当のデータの蓄積を得ることができている。当初計画していた報酬体系を被験者実験に模した形のアンケートの実施が実現していないが、被験者実験の選択とアンケートの回答は条件の変化に応じて類似の傾向を示していることから、人々の一般的な格差への態度を検証するため、両方の調査結果が相補的に利用できる状態にあり、アンケートを用いた擬似的な実験の重要性は後退している。ただし、被験者実験に関しては、偶然や運の要素による格差に対してどのような再分配の先行を持つかについては十分なデータが得られておらず、またアンケートにおいては得られたデータから属性ごとの傾向を把握するための統計的な検証もまだ十分ではない。これらについては最終年度に進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず不足データのさらなる収集、データの検証の2点を進める必要がある。アンケートにおいては、格差の要因が運による場合、努力や才能による場合よりも再分配により積極的になる傾向が見られる。被験者実験においてもこの傾向が見られるかを検証する必要があり、このための実験を計画する。また、現実の社会における再分配への選好を検証するためには、現実の格差がどの程度本人の努力、才能、運に依存していると人々が考えているかを検証する必要がある。これについては既にアンケートで尋ねてはいるが、過去の申請者の調査及び他の研究結果とも付き合わせ、その妥当性を確認する。これらを踏まえ、格差による不効用を、それを減らすためにどの程度まで支出できるかという形で一般化した指標の提示を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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