最終年度においては、前年度からのディクテーターゲームに添う形の実験とアンケートのデータを更に蓄積し、人々が不満に感じる格差とはどのような格差であるか、また、それを改善する為に再分配の配分者側であれば再分配にどれほど応じるか、すなわち自らコストを負担するかについての検証を進めている。社会人を対象としたアンケートにおいては、自分と同様の環境でありながら自分の半分の所得である誰かに対して、平均で自分の所得の10.2%を与えるという回答を得、学生を被験者とし実際の金銭報酬すなわち経済的誘因を伴う経済実験においては、高い初期分配を受けたものは平均して自分の初期分配の5.3%を低い初期報酬の者に与えるという結果を得ている。アンケートにおいては未既婚、扶養者数、所得といった属性と配分率の間には相関は見られず、しかし年齢層が上昇すると配分率が高くなる傾向が見られた。また、格差がどの様な要因によるものかという仮定によって合意する配分率は異なり、努力、才能、運による所得格差では、運による差が最も再分配率が高く、才能と努力はそれに比して有意に低かった。経済実験においては初期配分の高低を事前の作業、テスト、くじの3種類で決定したが、再分配の選好に格差の発生要因の違いによる有意差は確認できなかった。ただし、高い配分を受けるのに努力、才能、運のいずれがどれほど重要だったかを問う質問の回答との僅かな相関が見られ、主観的にどの要因で差がついたかと認識しているかが再分配の選好に影響していると考えられる。経済実験からは昨年度の中国での結果との比較から、人々の格差に対する選好が社会的な慣習にも影響を受けている可能性も指摘できる。また、再分配を受ける側の選好に注目すると、属性や格差の発生要因による選好の違いはほとんど確認されなかった。これらの結果は詳細な検証を学術誌に投稿中である。
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