本研究の第一の目的は,様々な利害相反環境下にある証券アナリストの独立性に関して,実証的知見を得ることである.証券アナリストは,資金の需要サイドである企業と供給サイドである資本市場とを結ぶ情報仲介者であり,彼らの職務のひとつに,アナリスト・レポートと呼ばれる企業調査レポートを執筆・公表することがある. アナリスト・レポートは,投資家にとって大切な投資意思決定情報であるので,当然のことながら,その執筆者である証券アナリストには調査対象企業からの独立性が求められる.しかしながら,実際には,自社の投資銀行部門からの圧力や調査対象企業への情報アクセスの確保といった理由から生じる様々な利害相反が存在して,証券アナリストの独立性が損なわれていることが予想される.そこで本申請研究では,わが国の証券アナリストの独立性が実際に担保されているかどうかを,証券アナリストが公表するアナリスト・レポートに記載されている利益予想を調査対象として検証している. 本年度は,アナリストの利益予想に多大なる影響を与えていると考えられる経営者の利益予想の特性に関する検証を行った.具体的には,2000~2011年の期間に倒産した企業をサンプルとして,それらの企業の公表する連結の業績予想に関する予想バイアスについて検証を行っている.結果は,倒産企業の経営者による業績予想はコントロール企業と比べて楽観的であり,またその楽観性は倒産年度に近づくにつれてより有意に強くなっていた.また,倒産企業の中でも,会計操作を行ったと推測される企業の業績予想には楽観的バイアスがほとんど見出されなかったが,そうでない企業の業績予想には非常に大きな楽観的バイアスが観察された.
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