研究課題/領域番号 |
23530396
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
前田 高志 関西学院大学, 経済学部, 教授 (70165645)
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キーワード | 地方分権 / 地方税 / 課税自主権 / 州税 / 企業課税 / 企業立地 / 実効税率 / 受益負担比率 |
研究概要 |
アメリカでは企業立地を含め地域経済のさまざまな局面で州間や地方自治体間での激しい競争が存在し、企業の立地選択においては企業の州・地方税負担が大きな影響を及ぼす。そのため、各州とも他州との競争を考慮しながら州・地方企業課税の制度設計を行っている。平成25年度の研究では、そうした州・地方企業課税の課税自主権の視点からみた実態について、税収の企業課税への依存度や実効税率(企業課税の税収/民間部門州内総生産)等の指標に係る時系列と地域間比較のデータを、州税協議会(The Council on State Taxation)や Lincoln Institute of Land Policy & Minnesota Center for Fiscal Excellence、The Tax Foundation、商務省統計局などから得て分析を行った。 企業の州・地方税負担は州・地方税全体の約45%を占め、税目別には地方財産税が最も重く、売上税、法人所得税、失業保険税と続き、これら4税で企業負担全体の7割以上を占める。この負担の構成に州間での大きな違いは存在しない。州・地方税の企業課税への依存度は州によって異なるが、全体として大きな地域格差は存在せず、同じことは実効税率という別の指標でも確認できた。このことは裁量的な課税権を行使できるアメリカにおいても、それが企業負担面に強く及ぶものではないことを示している。しかし、その一方で、企業の州・地方公共サービス受益量(推定値)と負担を対比させた受益・負担比率では州間での大きな格差が存在することがわかった。すなわち、企業課税への税収依存が小さくない州・地方税において、各州はその強力な裁量権にもかかわらず他州と大きく異なった制度・政策を選択せず、その歪みを企業対象の歳出面で調整していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究全体の目的は、地方分権化を進めるにあたって重要な要素となる地方公共団体の課税自主権について、その経済効果と財政規律との関連を理論的、実証的に分析し、地方税制において課税自主権をどこまで拡大すべきか、拡充の要件、基準は何かを明らかにすることである。これまでの研究において、①現行の地方税制度の枠内での課税自主権の拡充にとって高齢者の納税者の増大がその制約要因になること、②アメリカのTIF制度を事例として、財政規律を担保した課税自主権の拡充が可能であること(以上平成23年度)、③課税自主権に基づく地方税減免での公益性基準の定期的な見直しの必要性、④地方税減免等の居住地・企業立地等への非中立的効果が存在すること、⑤地方税減免については課税庁の公益性の再定義と予算化が必要であること(以上平成24年度)等を明らかにしてきた。これらの研究成果を受け、平成25年度は分権型行財政システム下にあって租税政策に大幅な裁量権を有するアメリカの州・地方政府が、地域経済との一種の緊張関係により州・地方税とりわけ企業課税において限定的な課税自主権しか行使できず、結果、税収依存度や実効税率等の負担指標で各州が近似していることを、種々の時系列データや州・地方ミクロ・データを用いて検証した。このことは高度経済成長期以降、法人事業税や法人住民税などの法定外税はもとより、課税自主権に基づく法定外税や超過課税等においても法人企業課税に大きく依存し、それが財政規律低下の一因ともなってきたわが国地方税とは対照的であり、今後の課税自主権の拡充が地域経済との連関及びその活性化の視点にたち企業課税以外の税目でなされるべきことや、財政規律を担保した課税自主権の拡充のためには企業課税への依存度を下げる必要があることなど、今後の地方税改革への含意が得られることが確認できた。以上より本研究の目的は概ね達成されつつあると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は平成25年度までで概ね達成されているが、分析結果の妥当性を制度から確認するために必要な資料(アメリカのCCH社の州・地方税資料全17冊)が出版社の刊行遅れのため、その入手が平成26年度に入ってからとなった。現時点でこれらの資料は入手できているので、今後は結果の最後の確認を行い、総括と政策提言のとりまとめを行いたい。それらは平成26年度中に発行される雑誌に複数の論文として掲載される予定である。 なお、平成26年度における総括の主な項目は以下のようになる。①アメリカの分権的州・地方税政策の分析から明らかになったように、地方企業課税は企業立地の選択に影響することから必然的に課税自主権を適用することは困難であり、課税自主権は個人課税において活用されるべきである。②課税自主権による地方税の減免は過去の判例が示すように公益性の判定を公平性とのバランスにおいて定期的に見直す必要がある。そのことが減免等を課税自主権として活用してゆくための前提条件となる。③人口減少・少子高齢社会にあって課税自主権の活用は容易ではなくなるが、アメリカのTIFのようにレベニューボンドとの組み合わせによって財政規律を確保したかたちでの活用の可能性も考えられる。④①との関連で、課税自主権を拡大して地方税制を再構築した場合、個人納税者の負担感につながるような税制になれば財政規律が強く機能することが期待される。逆に個人納税者の負担感との関係の弱い税制改革であれば財政規律は期待できないが、地方公共団体間での税制の差異はあまり生じないことになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度中に購入を予定していた書籍の発行が遅延し、年度中の購入ができなくなったため。 平成25年度中に購入予定であったが公刊遅延により入手できなかった書籍を購入する。
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