研究課題/領域番号 |
23530406
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 尚史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60262086)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | 鉄道車輌貿易 / 日本鉄道業 / 商社 / 機関車メーカー / 国際関係経営史 / 19-20世紀転換期 / アメリカ / 大倉組 |
研究概要 |
本研究の課題は、19-20世紀転換期における鉄道車輌世界市場の状況をふまえつつ、外国鉄道車輌メーカーと国内鉄道企業、その仲介者である内外商社の活動を検討し、鉄道車輌対日輸出のメカニズムを解明することにある。そのことを通して、近代日本における鉄道業の急速な発展の国際的契機を探りたい。 以上の問題意識を念頭に置きつつ、本年度はまず、アメリカにおける機関車メーカー、日本商社といった企業の史料の調査・研究を行った。具体的には、スミソニアン協会が所蔵するBaldwin社文書、シラキュース大学が所蔵するAmerican Locomotive社およびRogers社文書といった米機関車メーカーの史料と、アメリカ国立文書館が所蔵する在米日系企業接収史料(RG131シリーズ)中の大倉組文書の調査を行い、アメリカによる鉄道車輌対日輸出の構造を、出し手である機関車メーカーと、仲介者である商社の視点から考えた。 その結果、世紀転換期における運輸・通信、金融、領事館といった貿易基盤の整備をうけて、三井物産や大倉組といった日本商社のニューヨーク進出が本格化し、欧米商社とあわせて、アメリカ製鉄道車輌の対東アジア(日本・朝鮮・中国)輸出をめぐる商社間の競争が激化したことが判明した。その結果、日本の鉄道各社は、複数の商社を指名した競争入札によって、一定の基準を満たした鉄道車輌を、適正な価格と納期で購入することが可能になった。 世紀転換期の機関車世界市場が、英米独三国の競争によって流動化し、購入者側に有利な状況になっていたことは、すでに中村尚史「世紀転換期における機関車製造業の国際競争」(湯沢・鈴木・橘川・佐々木編『国際競争力の経営史』有斐閣、2009年)によって指摘していたが、今年度の研究によって、こうした競争的な市場構造の背景に商社間の熾烈な鉄道資材の売り込み・買付競争が存在したことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した平成23年度の研究計画は、「日本国内とアメリカでの史料調査を重点的に実施し、日米関係の視点から、(1)鉄道車輌の世界市場におけるアメリカとイギリスの角逐、(2)アメリカ製機関車・車輌部品の輸出動向と対日輸出の実態といった問題を考え、(3)収集史料を用いた中間報告的な研究論文の執筆を行いたい」というものであった。この3つの課題のうち、本年度とくに(2)と(3)について、大きな成果が得られた。 まず(2)については、世紀転換期におけるアメリカの主要機関車メーカー3社の輸出動向を、スミソニアン協会とシラキュース大学での現地調査によって得られた各社の内部史料で把握することができた。さらに機関車対日輸出の実態については、アメリカ国立公文書館で収集した大倉組ニューヨーク支店の文書によって明らかにすることができた。この成果を踏まえて、2011年10月、「大倉組ニューヨーク支店の始動と鉄道用品取引」(ISS Discussion Paper Series J-201)という論文を執筆した((3)との関連)。さらにこのディスカッション・ペーパーをもとに、東京大学の経済史研究会において、同じタイトルの口頭報告を行った(2011年11月14日、於東京大学小島ホール)。 このように、アメリカ製鉄道車輌の対日輸出に関して、本年度は当初の計画以上の成果を挙げることができた。しかし一方で、アメリカ側の研究に没頭したこともあり、(1)の英米比較について、今年度は十分に深めることができなかった。次年度以降、引き続きこの課題に取り組んでいきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、まず前年度に十分実施できなかったイギリス側の史料調査を行う。具体的にはイギリス国立公文書館において、イギリス領事報告や外務省史料(FOシリーズ)の調査を行い、イギリス側からみた世紀転換期の鉄道車輌世界市場の様相を明らかにする。またすでに収集しているNorth British LocomotiveやBeyer Peacockといった主要なイギリス機関車メーカーの社内史料を精査し、イギリス製機関車の輸出動向を、前年度に検討したアメリカの事例と比較する。あわせて2012年8月末にパリで開催される国際学会で研究成果の一部を報告する。 平成25年度には、ドイツ製機関車の対日輸出の実態を考える上で必要となる史料の調査・収集を行う。具体的にはミュンヘンのバイエルン州史料館に所蔵されているKrauss-Maffei社の史料の調査・研究を行う。あわせてイギリス側史料の追加調査を実施する。 平成26年度には、アメリカにおける追加調査を実施する。具体的にはサウス・メソジスト大学に所蔵されているBaldwin社の史料を調査し、アメリカ機関車メーカーの対日輸出の全体像を明らかにする。その上で、これまでに収集した英米独日四カ国の史料を詳細に分析し、世紀転換期の日本市場をめぐる鉄道車輌貿易の構造を立体的に捉えることを目指したい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度はイギリスと日本国内での史料調査を重点的に実施し、(1)鉄道車輌の世界市場におけるアメリカとイギリスの角逐、(2)機関車対日輸出の英米比較を行う。さらに2012年8月末にパリで開催される国際学会で研究成果の一部を報告する。その具体的な計画は、以下の通りである。 4月~7月 国際学会用の研究論文執筆を行い、完成させる(外国語論文の校閲費が必要)。 8月~9月上旬 イギリスの国立公文書館(ロンドン)における史料調査を実施する(海外調査旅費、複写費が必要)。それに合わせて、8月末にフランスで開催される予定の国際学会に参加し、研究成果の一部を報告する(英仏間の成果発表旅費が必要)。 9月下旬~12月 イギリスで収集してきた外交文書、企業関係史料の解読と各種政府刊行物や技術雑誌の分析をすすめる(トナー・カートリッジ代、研究補助費が必要)。 1~3月 鉄道博物館、日本交通協会で、鉄道車輌の発注者である官営鉄道や鉄道会社、業界団体に関する史料の調査・収集を行う(複写費、研究補助費が必要)。
|