研究課題/領域番号 |
23530406
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 尚史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60262086)
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キーワード | 鉄道車輌貿易 / 日本鉄道業 / 商社 / 機関車メーカー / 大倉組 / 三井物産 / 鉄道国有化 / 鉄道合同 |
研究概要 |
19-20世紀転換期は、鉄鋼や機械といった重化学工業分野における列強間の国際競争が激化し、製造業におけるイギリスの覇権が揺らぎはじめた時期であった。例えば鉄道用品の場合、1890年頃から英米間における機関車の性能・価格・納期をめぐる競争が激化し、まず南アメリカで、ついで日本を含むアジアや大英帝国の植民地で、両国メーカーのシェア争いが熾烈となった。その過程では、まず機関車の標準化が価格・納期の両面における競争力強化に大きな力を発揮し、ついで新技術導入に対する積極性の有無が競争の行方を左右した。こうした世界市場の状況は、日本が最新鋭の機関車を安価に、短納期で購入することを可能にし、鉄道業が急速な発達を遂げるという「後発性の優位」をもたらした。 本研究は、こうした日本鉄道業形成の国際的契機を、外国機関車メーカー、内外商社、鉄道企業、在外公館といった諸経済主体の分析から明らかにすることを目指している。本年度は、このうちとくに北米での日本商社の活動について、大倉組と三井物産の事例にもとづいて考察した。そしてその成果の一部を研究業績欄の「大倉組ニューヨーク支店の始動と鉄道用品取引」として発表した。 また本年度は、鉄道政策についてもその国際的契機に注目しつつ再検討を加え、日本における鉄道国有化の国際的位置づけを考えた。その結果、日本の鉄道国有化が19-20世紀転換期における世界的な鉄道合同運動の一つに位置付けられる点が明らかになった。世界的な鉄道合同の動きは、イギリス、アメリカで機関車メーカーの大合同をもたらすとともに、買い手独占の形成という意味で、日本をめぐる鉄道車輌貿易に決定的な影響を及ぼした。 なおこの研究の成果は、第16回ヨーロッパ経営史学会年次大会(於パリ、2012年8月)と、京都大学での鉄道史国際ワークショップ(2013年2月)という、二つの国際学会において報告している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した平成24年度の研究計画は、①ドイツにおける史料調査を行い、ドイツ製機関車の対日輸出の実態、過熱蒸気機関に象徴されるドイツの技術革新の世界市場における位置づけといった問題を検討する。②国際学会に参加し、研究成果の一部を報告する、というものであった。 この2つの課題のうち、本年度に集中的に実施したのは②であり、前述したように、国際学会、ワークショップで2回の報告を行った。さらに本年度は、研究業績欄にあるように、本研究に関連するテーマで2回の国内学会報告も行っており、研究成果の発信という意味では、期待以上の成果を挙げることができた。 一方、①については、予算制約との関係で、ドイツでの現地史料調査が実施できなかったため、主として技術雑誌や業界誌といった二次文献での予備的調査にとどまった。ただし、ヨーロッパ経営史学会での共同報告を通して、ドイツ帝国における鉄道国有化や、プロイセンの鉄道国有化について多くの知識を得ることができた点は、今後の鉄道車輌貿易研究を行う上で有意義であった。 また昨年度、積み残した研究課題である鉄道車輌貿易に関するイギリス側史料の調査については、2012年8月にイギリス国立公文書館を訪問し、外交文書(FOシリーズ)や鉄道会社史料の調査を行った。ただし、こちらも時間の関係で、機関車メーカーの史料調査を行うことができず、今後の課題として残さざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、日本とアメリカでの補充調査を実施し、日米関係史料の整理・分析を行う。具体的には、まず日本で三井文庫が所蔵する三井物産関係史料の精査を行い、日清戦後から日露戦後にかけての三井物産の鉄道用品取引の実態を明らかにする。また大倉組については、一昨年度、アメリカ国立公文書館で収集した大倉組ニューヨーク支店史料と東京経済大学が所蔵する大倉商事関係史料の比較検討を行う。その上で、夏期休暇を利用してアメリカの現地調査を実施し、日本商社接収文書の追加調査を行いたい。 平成26年度は、夏期休業を利用してイギリスの補充調査とドイツ・ミュンヘンの調査を実施し、Beyer Peacock(イギリス)やクラウス(ドイツ)といった機関車メーカーの史料を収集する。これをすでに収集しているアメリカ・メーカー(Baldwin、ALCO)の史料と比較検討し、鉄道車輌対日輸出の構図を明らかにしたい。またその成果を学会報告と雑誌論文、最終報告書の作成という形で公表していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はアメリカでの日本商社関係史料の調査を重点的に実施し、日米双方の史料を用いて、世紀転換における鉄道車輌対日輸出のメカニズムを考えたい。具体的な計画は、以下の通りである。 4~7月 三井文庫および東京経済大学所蔵史料の調査を行い、三井物産・大倉組に関する史料の確認と分析を行う(複写費・研究補助費が必要)。 8~9月アメリカ国立公文書館とサウス・メソジスト大学の現地調査を行い、日本商社接収文書とBaldwin社関係史料を調査・収集する(海外調査旅費、複写費が必要)。 10~12月 アメリカで収集した史料を日本で収集した史料と照合しつつ、文書の解読を行い、鉄道車輌対日輸出のメカニズムを考える。 1~3月 収集・分析した史料をもとに日本語・英語での論文の執筆を行う(外国語論文の校閲費が必要)。
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