近代日本における鉄道業の急速な発展を考える場合、その再生産を可能にする鉄道用品の供給が、誰によって、如何にして行われたのかという問題を考慮することは不可欠である。とくに機関車の自給が難しかった明治期において、この問題は鉄道車輌・同部品の円滑な輸入がなぜ可能になったのかという問いに置き換えることが出来る。そこで本研究は、①19-20世紀転換期における鉄道車輌世界市場の状況をふまえつつ、②外国鉄道車輌メーカーと国内鉄道企業、その仲介者である内外商社の活動を検討し、鉄道車輌対日輸出のメカニズムとダイナミズムの解明をめざした。 以上の問題意識にもとづき、本研究は、国境を越えた機関車の生産と流通を、日本、イギリス、アメリカ、ドイツ四カ国の一次史料に基づいて考察した。最終年度である本年度は、アメリカにおける追加調査を行うとともに、研究成果の集大成となる単著書『海をわたる機関車―日本鉄道業形成の国際的契機』(吉川弘文館、2015年刊行予定)の原稿執筆を行った。本書は、「第1章 世紀転換期における機関車製造業と国際競争」、「第2章 日本における鉄道創業と機関車輸入―イギリス製機関車による市場独占」、「第3章 日本鉄道業の発展と機関車取引―アメリカ製機関車をめぐる攻防」、「第4章 局面の転換―日露戦争・鉄道国有化と機関車貿易」、「第5章 機関車国産化の影響―最後の大型機関車輸入」の全5章から構成されており、日本鉄道業の形成過程における機関車供給のあり方の変化を、世紀転換期における世界的な鉄道資材市場の動向とも絡めながら論じている。その結果、機関車貿易では各国領事・大使やメーカー派遣のセールス・エンジニア、内外商社などが重要な役割を果たしていたことが明らかになった。第一次グローバル化といわれる国際環境のもとで、これらの担い手たちが縦横に活動することで、機関車の円滑な供給が可能になったのである。
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