本研究は、徳川時代に形成された大名と大坂両替商との間の関係的融資慣行について、鴻池屋善右衛門の史料を主として利用し、その実態を明らかにすることを目的とするものである。前年度までは、研究代表者を中心に史料の解読を進め、適宜、研究会を東京大学社会科学研究所にて開催し、研究成果を分担者2名と共有し、その解釈の妥当性について討論を行った。最終年度は、研究代表者を中心に研究成果の発表を積極的に行いつつ、新たな史料の渉猟にも努めた。その代表的な成果を以下にまとめる。 第一に、徳川時代に諸大名の金融サービスを請け負った商人集団である「館入(たちいり)」について、理解が深まったことである。具体的には、鴻池善右衛門家文書(大阪大学経済史・経営史研究室所蔵)、大同生命文書(同前所蔵、後述)などを用いて、館入と大名の契約関係を分析し、その成果を、日本史研究会大会(京都産業大学、2013年10月12日)において、単独口頭報告「近世中後期大坂金融市場における「館入」商人の機能」として発表した。この内容は、同学会の査読プロセスを経て、査読付き業績として『日本史研究』に掲載された。 第二に、新たな史料発掘、整理に進展が見られたことである。具体的には、大同生命保険株式会社が保有していた約2500点の経営史料を、大阪大学に寄託して頂き、分析の俎上に乗せることに成功したことである。当該史料群の内、約400点は徳川時代の両替商として、鴻池屋善右衛門と双璧をなした加島屋久右衛門のものである。現在、同史料群は大阪大学にて公開されており、本研究プロジェクトのみならず、学界全体に寄与する成果であったと自負している。
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