研究課題/領域番号 |
23530412
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
澤井 実 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (90162536)
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キーワード | 軍民転換 / 科学技術動員 / 生産管理 / 工場診断 |
研究概要 |
戦時期における科学技術動員、戦中・戦後の科学技術者養成、科学技術者の軍民転換について検討した。 とくに科学技術者の軍民転換の具体的事例を検討するために、本年度は、3名の陸海軍士官、1名の民間航空機メーカーの技術者の戦中・戦後の活動を検討した。これらの4名の生産管理・工程管理の専門家はそれぞれに軍民転換を経験し、二人は光学機械メーカーおよび家電メーカーに活躍の場を見出し、他の二人は工場診断の専門家として、戦後復興、企業再建、さらに高度成長期の企業成長を支える重要な役割を果たした。 科学技術者の軍民転換のプロセスは安易な一般化を許さないほどに多様で個性的であったが、彼らが戦時期に何を学び、その経験をもとに戦後の困難な状況をいかにして切り開いていったのかをできるかぎり具体的に検討した。 戦時中の必勝のための生産管理、工程管理の遂行を通して彼らが学んだことは、設計技術よりも生産現場における工作技術の後れであり、それに規定された量産技術の決定的立ち後れに対する認識であった。しかし、戦時中にはそうした諸問題を解決するための具体的方策は少なかった。したがって、生産管理、工程管理の専門家たちは、戦後になると一方でアメリカからの手法に学びつつ、他方では戦時期に十分には実施できなかったさまざまな管理手法を駆使しながら、戦後復興期には可能なかぎり量産技術、工作技術の向上に努めた。 こうした努力が例えば工場診断技法と結びついたとき、系列診断などはより一層下請工場の診断にその効果を発揮するようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的では、戦前から戦中への民軍転換、戦時中の科学技術動員の深化、戦後の軍民転換を掲げ、わが国のナショナル・イノベーション・システムの変遷に対する認識を深めることを掲げた。 戦前から戦中への民軍転換では、帝国大学や高等工業学校の戦時体制への対応過程、ラジオメーカーの電波兵器生産への転換過程などを検討した。また戦時期における科学技術動員の深化については、1942年2月に開庁した技術院の活動、とくに八木秀次などの活動を詳しく検討した。さらに戦後の軍民転換については4名の事例を詳しく検討した。
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今後の研究の推進方策 |
戦後の軍民転換の延長線上の研究になるが、戦時中の陸海軍科学技術者の一部は、戦後になってもフォーマル、インフォーマルにさまざまな団体や研究会を組織して、縦横の結びつきを維持した。こうした旧陸海軍科学技術者の団体的活動が戦後復興、高度成長にいかなる意義を有したのかを改めて検討してみたい。 諸団体、研究組織等の名簿や機関誌などを利用しながら、具体的な技術課題に対していかに関わり、その成果がどの程度のものであったのかを検討する。 さらに業界団体、学協会についても、対象事例を増やして、ナショナル・イノベーション・システムに占めるその機能・役割について考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の「今後の研究の推進方策」に従って、旧陸海軍関係者、科学技術者の戦後における活動を調査するため、国会図書館、国立公文書館、防衛省防衛研究所図書館、昭和館、靖国偕行文庫等で、資料収集に努める。これらの図書館、文書館はいずれも東京に所在するため、10数回の東京出張を予定している。また研究費の半額程度は、関連文献の購入費に充当される予定である。
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