研究課題/領域番号 |
23530416
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研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
加藤 健太 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (20401200)
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キーワード | 日魯漁業 / 株式取得 / 役員派遣 / 商社金融 / 企業間関係 |
研究概要 |
本研究の目的は、戦前期の三菱商事(商事)を主な対象に、取引関係の視点から総合商社の機能を再検討することである。分析に際しては、意思決定プロセスを視野に入れながら、商事と取引先企業との関係の変遷を追跡するとともに、個別の取引関係の中で、商事の持つ経営資源が果した役割とその意義に接近した。 研究成果としては、①「三菱商事と安治川鉄工所」と②「三菱商事と日魯漁業」というテーマで学会報告を行い、②については、論文「日魯漁業向け融資をめぐる交渉」(『三菱史料館論集』第14号、2013年3月)として発表した。研究実施計画との関連では、一次史料を用いたケーススタディを進めたことになる。 上記の論文では、日魯漁業向け融資を題材に、同社、三菱商事および銀行の交渉過程の追を通して、商事がいかなる姿勢で資金を融通し、そのことがどのような意味をもったのかという点を明らかにした。具体的には第1に、商事は「島徳事件」の処理過程で、日魯の株式を取得し、資金を供給し、さらには役員を派遣して関係を深化させた。ただ、商事は、日魯の経営に対して早急かつ強いコミットを避けるよう慎重な姿勢を貫いていた。第2に、そうした商事の姿勢は、日魯が自律性を維持することを可能にした。そのため、日魯漁業は、信用リスクの低下に伴い、担保を解除したり、低金利融資を申し入れてきた。その意味で、商事と日魯の企業間関係は、市場ベースの“arm’s length”な取引であった考えられる。 この他、米国国立公文書館、東洋紡、三菱史料館、東京大学経済学部図書館などで、総合商社の事業活動に関わる資料の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度以降の研究計画としては、「三菱商事の取引関係と損益構造を分析する。前者は、個別の事例分析に止まらず、商品・支店を分析単位にして、発見された商事(総合商社)の機能の一般化を試みる」ことを挙げていた。具体的には、以下のようなテーマを想定していた。 すなわち、「商品単位の分析は、水産物を題材にして、三菱商事による資金供給に焦点を合せながら、水産会社との取引関係の変化とそこで発揮された商事の機能を検証する。ここで言う取引関係は、一手購買・販売契約の締結、融資だけでなく、新会社設立や株式買入・売却なども含まれる。本計画では、とくに商事が1929年に日魯漁業に対する融資を行うにあたり、モニタリングを目的とする役員派遣を検討した点に注目する。言い換えれば、取締役会で役員派遣を議論するまでに取引関係が深化した要因の解明を、この研究の1つのポイントにする予定である」と。 本年度に発表した論文「日魯漁業向け融資をめぐる交渉」は、この計画に沿った内容となっている。その意味で、研究計画は着実に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は、三菱商事の事例を中心に、取引先に対していかなる機能を発揮したのかという点を検討するとともに、その成果として、同社がどのような取引実績をあげたのかという点に接近する。 具体的には、鮭鱒缶詰を主な対象にして、三菱商事の水産物取引に関する分析を深めたい。それは、2012年度に発表した「日魯漁業向け融資をめぐる交渉」を前提とする。この論文では、商事が一貫して慎重な姿勢を示しつつ、融資、株式取得、そして役員派遣という形で日魯との関係を深化させたことを明らかにした。今後は、そうした取引関係の深化が、商事に何をもたらしたのかといった点を、①ロンドン支店と②同支店を含む海外拠点ネットワークの機能に注目しながら解明していきたい。 鮭鱒缶詰の輸出取引では、最大の消費地であった英国市場がきわめて重要な位置を占めた。それは、三菱商事の海外拠点の中でも、とくにロンドン支店が多面的な機能を期待されたことを示唆する。①として、同支店に光を当てる所以である。 資料としては、三菱史料館や米国国立公文書館に所蔵されている三菱商事『事務引継書』、同『綜合決算表』および各種書簡といった一次史料ほか、各大学図書館所蔵の二次文献(調査資料や統計、専門誌等)を用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
資料調査や研究発表のための旅費、宿泊費、備品(ノートパソコン等)、論文作成に必要な各種文献、複写代等に用いる予定である。
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