研究課題/領域番号 |
23530419
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
崔 在東 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (10292856)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ロシア / ソ連 / モスクワ県 / 梅毒 / ゼムストヴォ / 売春 / 疾病 / 医療 |
研究概要 |
本研究は、農奴解放(1861年)からロシア社会主義革命(1917年)、さらに第二次世界大戦の勃発(1941年)に至るおよそ1世紀間におけるロシアおよびソ連の農村社会を、農民と家畜の衛生、疾病、医療、保険という四つの観点から見直し、新たな社会および時代像を提示することを目的とする。 本年度は、まず農民の衛生・疾病・医療の実態について史料をモスクワとペテルブルグの複数の図書館と複数の公文書館で収集した。主な史料は、帝政ロシアの内務省保健局の疾病と衛生についての報告書、地方で農民医療に勤めていたゼムストヴォの衛生・疾病・医療についての報告書、ゼムストヴォ医師や医療関係者の実態報告書、農民医療関係専門家の調査報告書、医療関連雑誌と新聞である。農民の疾病に関しては、性生活と性病(梅毒)・売春、結核、インフル、精神病、身体と障害・自殺についての史料を収集した。革命後のソ連農民の衛生・疾病・医療についての史料も同様の要領で収集した。 目下、農民の性生活・性病・売春についての史料を整理しながら、論文の執筆に取り掛かっている。帝政ロシアの農村社会には世界的にも類を見ないほど高い性病(梅毒)の感染率を記録していた。年齢分布で見ると、複数のアンケート調査によれば、10代半ばで半数以上が性的経験を有し、性病の感染者はほとんど性的能力を有する年齢層に集中していた。このことは、帝政ロシアの農村社会には自由な性生活と売春が広範囲にわたって存在していたことを意味するが、ソ連の農村社会においても全く同様であった。ゼムストヴォの財政支出のうち最も高い割合を占めていたのは医療関係であるが、その半分以上が性病の対策に費やされていた。これはロシアとソ連の農村社会が梅毒にどれだけ腐心していたのかを物語るものである。それにも関わらず、帝政ロシア期はもちろん、1930年代半ばまでもその感染率は低下していなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、本研究の初年度の研究課題と目的のための農民の衛生・疾病・医療についても史料を、帝政ロシアだけでなくソ連の1930年代半ばまで体系的に収集できたことが最も大きな理由である。 また、ロシア・ソ連農民の性生活と性病という具体的なテーマを見出し、体系的に収集された史料の整理を通じて、論文の執筆が可能であると判断されたことも重要な理由の一つである。 さらに、次の研究課題である家畜の疾病・防疫・保険についての史料状況が、本年度の史料収集の際にある程度把握できたことが第3番目の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず初年度の研究課題である農民(人)の衛生・疾病・医療についての論文を執筆する。性病・梅毒・売春についての執筆中の論文を査読付学会誌に投稿する。なお、社会病としてもう一つ重要な結核の実態、インフルの流行、革命前のゼムストヴォと革命後の人民委員部による農民医療の取り組みと農民の対応とについての史料を整理し、論文の執筆に取り掛かり、学会誌に投稿する。 それと同時に、ロシアのモスクワとペテルブルグの公文書館と図書館で農民経営のために欠かせない家畜の疾病・防疫・家畜保険についての史料を収集する。家畜についての史料を整理し、疾病、防疫、家畜保険についてそれぞれ論文の執筆を進め、学会誌に掲載する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、研究代表者による単独遂行の研究であるが、既存の研究の蓄積がほとんど存在していないため、研究は主としてロシア現地の図書館と公文書館における一次資料の新たな発掘と収集を通じて遂行される。 次年度は、本年度と同様に、ロシアのモスクワとペテルブルグに出かけ、複数の図書館と複数の公文書館において、研究課題の遂行のために必要な史料の収集を行う予定である。研究費は、そのための渡航費と滞在費、および史料のコピー代とロシア語文献の購入に使用する。 なお、昨年度の残金は、レートの変動によるものである。
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