研究課題/領域番号 |
23530419
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
崔 在東 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (10292856)
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キーワード | ロシア / ソヴィエト・ロシア / ゼムストヴォ / 医療 / 衛生 / 防疫 / 生命保険 / 医療保険 |
研究概要 |
平成24年度には、昨年度のロシア人の疾病問題に引き続き、人の疾病に対する対策としての医療・防疫と生命・医療保険についての研究を主に遂行した。主として、医師や看護婦の育成、医療予算の動向、医療組織(病院・診療所、保健所、助産所)のネットワーク、衛生・防疫システム、生命保険と医療保険などの実態究明に努めた。 1861年農奴解放直後地方自治体(ゼムストヴォ)の発足と同時に、ロシア政府は貴族や国家の後見から解放される農民経営のセーフティのために様々な施策を講じたが、その中でも重要な意味を有していたものの一つが、医療と防疫事業、そして保険制度の構築であった。地方自治体ゼムストヴォの支出の中でも医療と衛生関連が最も高い比重を占めていただけでなく、その金額は19世紀末から1917年帝政ロシア政府の崩壊までのわずか20年の間におよそ10倍以上跳ね上がっていた。それに従って、医療や衛生・防疫関連組織のネットワークはロシア農村社会に急速に拡大していた。それと共に、生命保険と医療保険は、任意保険であり、民間の営利保険会社に任されていたものの、ロシア農民の加入率は持続的に増加していた。その結果、帝政ロシア末期のロシア農村社会における医療・衛生条件は大きく改善され、死亡率や疾病率において大きな低下がもたらされた。 一方、1917年ロシア社会革命後のボリシェヴィキ・ソヴィエト政権も第一次世界大戦やロシア革命さらに内戦と戦時共産主義を経て大きく低下していた農村社会の医療・衛生条件の改善とネットワークの復元と拡大に大きな力を注いだ。とりわけ1920年代のネップ期において医療予算の拡大とネットワークの再建と拡大が見られたが、1929年から始まるスターリン体制の強化と農業の集団化は、農村部における死亡率の増大と医療・衛生条件の悪化をもたらした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度はまず計画通りに帝政ロシアと1917年革命後のソヴィエト・ロシアとの農村社会における、医師や看護婦の育成、医療予算の動向、医療組織(病院・診療所、保健所、助産所)のネットワーク、衛生・防疫システム、生命保険と医療保険についてロシアとアメリカから収集してきた史料の整理を行う一方、平成23年度の研究課題である帝政ロシアとソヴィエト・ロシアの農村社会における疾病についての論文を執筆した。 それと同時に、別の研究テーマとして地方自治体ゼムストヴォの財政と諸社会事業についての論文に取り掛かっていた。その成果の一部として論文「20世紀初頭ロシアにおけるゼムストヴォ課税と商工業」を掲載した。引き続き、ゼムストヴォ財政と都市、ゼムストヴォ課税と農民および地主を執筆している。 さらに、革命ロシアの農村社会における防災事業についての論文「20世紀初頭ロシア農村社会におけるゼムストヴォ防災事業」を発表すると同時に、1917年ロシア革命後のソヴィエト・ロシアの農村社会に火事・防火と火災保険および防災事業についての論文を執筆している。 このように、平成24年度の研究課題の他に研究史においてほとんど注目されてこなかっただけに時を争う重要な複数の研究テーマについての研究を同時に遂行している関係で、計画通りに進められているものの、やや遅れが認められる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、家畜の疾病、獣医療、防疫と家畜保険についての研究を主に遂行する。1917年ロシア革命前の帝政ロシア期と1917年革命後1920年代と1930年代のソヴィエト・ロシア期の農村社会における、家畜の飼育、農民保有家畜の動向、家畜の疾病、家畜の身体、防疫システム、家畜保険、政府やゼムストヴォの取組、農民の対応などの実態を究明する。 具体的な研究の推進方策としては、主にロシアのモスクワ市およびペテルブルグ市にある図書館および公文書館、アメリカのハバード大学とコロンビア大学およびニューヨーク大学の図書館において史料調査を行う。具体的に、1917年ロシア革命前の帝政ロシアと革命後のソヴィエト・ロシアとにおいて各々中央政府および党における家畜や獣医についての報告書や議事録、家畜保有と獣医システムの全国レベルのデータ、モスクワ県・州とペテルブルグ県・州における家畜の飼育や疾病に対する取組、早くも1860年代から導入される家畜保険の実態と変遷、および農民の対応などについての史料の収集を行う。 ロシア現地とアメリカで収集した史料のデータ・ベースを構築し、家畜の飼育と疾病、獣医と防疫、家畜保険についての論文の執筆に取り掛かる。一方、24年度の研究課題についての論文を学会誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は、主にロシアとアメリカでの史料調査と研究交流のために使用する計画である。具体的には、ロシアのモスクワとペテルブルグにある図書館と歴史公文書館、アメリカのハバード大学とコロンビア大学およびニューヨーク大学の図書館での資料収集のための渡航代と史料の複写代に使う予定である。
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