研究課題/領域番号 |
23530435
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
木全 晃 香川大学, 地域マネジメント研究科, 教授 (10448350)
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研究分担者 |
板倉 宏昭 香川大学, 地域マネジメント研究科, 教授 (80335835)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 組織特性 / テレワーク / 環境要因 / 組織成果 |
研究概要 |
本研究は,震災などの自然災害時の事業継続の手段として,あるいはホワイトカラーの生産性向上やワークライフバランスの実現の方法として,さらには計画停電時における省エネルギーの手段としても有望視されているテレワーク(telework:在宅勤務等の遠隔労働)において,高い適合性を示す組織とそうでない組織があるという既往研究に基づいた仮説を定性的,定量的方法を通じて検証することを目的としている.テレワークには主に3つの導入形態(在宅型,ワークセンター型,モバイル型)があるとされているが,これらについて企業の導入の有無と組織パフォーマンスの高低,組織特性,組織外部の環境要因との因果関係を明らかにし,今後の企業の導入の指針を提言することが,本研究の最終目標である. 平成23年度は,この目標を達成するための準備段階として,主に4つの取り組み事項を掲げてきた.これは,1)分析のための理論仮説と分析方法の特定化,2)テレワークを実施中の数社への予備的調査,3)質問紙票(アンケート)の設計,4)データ解析用SPSS Statisticsの熟練,であった. 既に掲げたこれら準備段階の計画に照らし合わせるならば,1)および2),4)については,平成23年度に概ね遂行することができた.しかしながら,3)については,組織パフォーマンスの代理変数として多様な指標が考えられること,予備的調査によって判明した地球環境負荷低減効果をどのように本研究に組み込むか,換言すれば,組織外部の環境要因と組織特性の関係をどのような枠組みで分析するかという課題が生じたことから,質問紙票の精緻化は平成24年度に繰り越すこととなった. その一方で,平成24年度以降に計画していた国内学会での発表や学会誌での成果の公表については,充分に前倒しで行うことができた.この点は,今年度の研究実績として充分に評価に値することと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に4つの事項に取り組むことができたことから,概ね順調に進展していると評価してよいものと考えられる. その理由は,当初計画した1)分析のための理論仮説と分析方法の特定化,2)テレワークを実施中の数社への予備的調査,3)質問紙票(アンケート)の設計,4)データ解析用のPASW Statistics(旧SPSS)の熟練のうち,先にのべたとおり,3)を除くすべての事項を遂行することができたためである.その詳細を以下に記す. 今年度は,国内外のテレワークおよび組織論等の先行研究の書籍および論文を精力的に収集・レビューを行った.これにより,一つ目に記した「仮説と分析方法の特定化」をおよそ実施することができた.また二つ目に,「予備的調査」として計画数以上の企業を対象に実施することができた.これは上場企業である,パナソニック,ベネッセコーポレーション,NECソフト,ネットワンシステムズ等であった.テレワーク導入の経緯や体制,実施の具体的対象や内容を精査するとともに,実際にエネルギー需要の低減による二酸化炭素排出量の発生抑制,つまり地球環境負荷低減に一定の効果があることが分かった.このことはテレワークと組織特性のみならず,外部の環境要因との因果関係を精緻に検討するフレームワークが必要であることを示していた. 三つ目に,データ解析用の「SPSS Statisticsの熟練」については,分析ソフトの使用解説書を入手するなどし,多変量解析を行うレヴェルにまで到達することができた.この点については,かなりの進捗が見られた. 最後に特記すべきは,平成24年以降に計画していた成果の学会等での公表(雑誌論文7件のうち5件の査読付論文の受理)を前倒しで行うことができたほか,予備調査インタビューの知見などを生かしながら,書籍を共同執筆することができた点である.これらは高く評価して良いものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降は,主に,1)質問紙票(アンケート)の確定,2)質問紙票調査の実施,3)SPSS Statisticsを利用した回収データの解析,4)インタビュー調査,5)国内外での成果発表,に取り組む計画である. まず,テレワークが地球環境負荷低減に寄与する傾向を示す予備的調査結果を受けて,前年度より持ち越された環境要因を踏まえた組織特性の分析フレームワークの構築,および質問紙票の設計を行う.その成果は随時,国内外の組織研究の関連学会等で発表・改善する. また質問紙票調査は郵送法で行い,サンプルの回収目標としては20%(400サンプル)前後をめざすが,2000社前後へ調査票を送付する予定の本調査は,回収率が10%(200サンプル)程度であっても多変量解析を行うことのできる最低限のレヴェルを確保することができると考えている.回収したデータの解析にあたっては,平成23年度に習熟したSPSS Statisticsを利用する.欠損値を含んだカテゴリーデータを分析するため,コレスポンデンス,正確な有意確率による検定を行なうための各種オプショナルソフトウエアにより,習得した分析手法を最大限に活用する. さらに集計データや調査票データの計量的な分析結果の信頼性をより高め,複眼的に解釈するため,主に回答企業を対象にした事後インタビューを平成24年度から平成25年度にかけて実施する計画である.調査データの統計的解析のみでも充分に有効な調査結果が得られるが,解析結果から得た発見事実をもとに企業にフィードバック・インタビューを行うことで,さらに精緻な考察が可能となるからである.10社前後を計画しており,インタビュー対象者は総務あるいは人事担当を予定しており,大手企業が多いことから首都圏や関西圏が中心となることが予想される.これにより,さらに掘り下げた考察を行うことができるものと思われる.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費の使用は主に,1)質問紙票(アンケート)調査実施・分析関連費,2)インタビュー調査実施・分析関連費,3)国内外の学会発表・参加費,などからなる予定である. 質問紙票(アンケート)調査は郵送法で行う計画であり,前述のとおりサンプルの回収目標としては20%前後,400サンプルをめざすため,およそ2000社程度への調査票の送付が必要と考えられる.そのためのデータベースの作成,購入,集計結果の入力の補助要員への謝金などが予測される.データベース作成費を節約するうえで,既に本研究代表者らが作成した企業データベースを用いることも一考に価する.こうした案を踏まえながら,調査対象を絞り込む計画であり,これらの費用が一つ目の主要な研究費の用途となる. 二つ目の主要な用途は,インタビュー調査実施・分析関連費である.集計データや調査票データの計量的な分析結果の信頼性をより高め,複眼的に解釈するため,主に回答企業を対象にフィードバック・インタビューを平成24年度から平成25年度にかけて実施する計画である.インタビュー対象企業は10社前後を予定しており,対象者は総務あるいは人事担当者を見込んでいる. 三つ目の主要な研究費用途は,国内外の学会・国際会議での成果発表・参加関連費である.地球環境負荷低減にテレワークが一定の効果を持つ傾向が予備的調査から判明したため,外部の環境要因と組織特性との因果関係を精査するフレームワークを再構築し,その成果を広く国内外で発表する計画である. これは,海外の優秀な研究者とのディスカッションを通じ,フレームワークとしての頑強性,妥当性を担保するために重要であり, 同時に最新の組織研究動向をつかみ,これを本研究に反映し,改善するうえでも必要である.具体的には,今夏にスペインで開催される組織研究に関する国際会議への参加・発表を準備中である.
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