本年度は、複数の日本企業間(親会社)で実施される共同出資会社(JV)の設立および消滅が、親会社の株主価値にどのような影響を及ぼすのか、について実証分析を行った。一部の日本企業では、他企業とJVを設立し、そこへ事業部門を現物出資する動きがある。このような現物出資によるJV設立は、一種の事業分離(ダイベスティチャー)として位置づけれられる。さらに、このような経緯で設立されたJVの一部は設立後、数年で親会社と資本関係がなくなる、あるいは一方の親会社による完全子会社化が生じることがこれまでの研究者の実証結果より明らかとなっている。 そこで、本年はJVの設立とその変化(資本関係の消滅 or 完全子会社化)が出資者である親会社の株主価値にどのような影響を及ぼすのかについてイベント・スタディを用いて明らかにした。実証分析の結果、次のことが明らかとなった。第一に、JVの設立は調整費用のため親会社の株価にプラスの影響を及ぼさない点である。米国企業を中心とする先行研究では、JV設立は親会社の株価にプラスの影響を及ぼすことが明らかとなっているのに対し、日本企業では親会社間の調整費用が生じ、そのために必ずしもプラスとならないことを支持する結果が得られた。第二に、現物出資を通じてJVの設立に関与した親会社が、その後に株式を売却する、すなわちJVとの資本関係を消滅させるとき、親会社の株価がプラスに反応すること、それ以外のケースではプラスに反応しないことが明らかとなった。この結果は、ダイベスティチャーとしてのJV利用が市場によって高く評価されることを意味している。このように、本研究を通じて親会社の株価は設立時の出資方法と変化の方法の組み合わせによって異なることが明らかとなった。
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