研究課題/領域番号 |
23530444
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
海老根 敦子 駿河台大学, 経済学部, 教授 (30341754)
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キーワード | 企業内コミュニケーション / 品質競争力 / 品質経営 / 品質創造モデル / 製造企業 / IFM(相互作用する場のモデル) / 実態調査 / ダイナミクス |
研究概要 |
平成24年度の研究実績は次の通りである。 1.実態調査データの追加解析:地元の中・小規模製造企業を対象に先行研究において平成21年度及び平成22年度に実施した実態アンケート調査(総数11社,180名)のデータベースに,前年度継続的に協力を得た9社への訪問面接調査データを追加し,企業組織内コミュニケーションのミクロな構造の経時変化に関する追加解析を実施した。 2.調査対象企業の選定と調査:平成24年度の調査対象企業として,先行研究並びに前年度継続して協力を得た地元の中・小規模製造企業の内から1社選定した。当該調査対象企業は,1の実態調査データの追加解析結果において,組織内コミュニケーションの状態及び業務成果において特筆すべき特徴を呈していた。経営管理者や従業員への面接調査と生産現場の観察を通じて,業務活動の実践状態を把握した。 3.今回得られた知見:(1)中・小規模の企業において,組織内の情報受発信の頻度(量)は企業規模依存性が高く,組織構成員の情報満足度とは正の相関関係にないため,組織内コミュニケーションの状態を把握する指標として適切ではない。(2)企業の組織内コミュニケーション状態は,組織構成員の業務遂行に関する情報満足度という指標で表現できる。(3)企業の品質管理活動や業務改革の状態に時間軸を導入し,4つのフェーズ(導入期,普及期,定着期,不適応期)で表現すると,企業内コミュニケーションの状態と品質競争力との関係を動的に論ずることができる。 4.研究成果の公表:オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会第4回全国研究発表大会で論文集に執筆し,口頭発表した。またThe 2nd International Symposium on Operations Management and Strategy 2012 で口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に進展しているが,その進路は当初予想されたものとは多少異なるものとなった。製造企業の品質競争力と組織内コミュニケーションの関係を解明しようとする本研究の原点は,高業績の製造企業に対する世界的大規模実態調査のデータをコミュニケーション論の観点から解析した1999年の申請者等の研究にある。しかし,多国籍多人数の研究者が参画する調査データの利用には,個人研究者の試行的研究のためには小回りが利かない,あるいは自由度が乏しいという不自由さが伴う。そこで申請者は地元中小製造企業に注目し,平成20年度から3年間の先行研究に着手した。そこで問題解決の手がかりの片鱗を掴んだために,先行研究を継続発展させる形で本研究に着手し,前述の1.実態調査データの追加解析に述べた解析の結果,2年目には,前述の3.今回得られた知見に示した3つの成果または有望な仮説を得たが,ここで1つの壁に直面することになった。それは,調査の自由度とは背反な,統計的実証を行うにはデータ数が寡少であるという問題である。そこで,小規模実態調査のもう一方の利点である調査対象企業との距離の近さを活かして,前述の2.調査対象企業の選定と調査に述べた1企業を主な対象とするケーススタディーに踏み切った。その結果,本研究の基盤的モデルとして申請者が提唱しているIFM(相互作用する場のモデル)に関して,コミュニケーションのモデルには時間軸の導入が不可欠であるという初年度に得られた指針に従って,時間軸の導入による理論整備を主目的に,企業への面接調査と先行研究の実態調査データの追加解析を重点的に実施し,企業内コミュニケーションの状態と品質競争力との関係を説明できる有意義な可能性を見出すことに成功した。よって,研究は概ね順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究実施推進方策は次の通りである。即ち,平成20年度から3年間の先行研究を継続発展させた本研究の利点は,地元中小製造企業との信頼関係に基づき,研究の進展に伴って発生する思いがけない課題に機動的に対応できることである。しかし一方で,データ数の寡少という問題は如何ともしがたい。これに対して,大規模実態調査には,データの統計的信頼性が高いという利点がある。前述の高業績製造企業に対する世界的大規模実態調査のデータをコミュニケーション論の観点から解析した1999年の申請者等の研究は本研究の原動力となるものである。したがって,この大規模実態調査データの解析は,並行して継続的に発展させなければならない。そして,両者は相補的に機能することが可能である。 経営学の研究対象は複雑で動的である。このような対象に迫るためには,段階的アプローチが有効であろう。即ち,単一時点における経時変化を伴わない解析から着手して,次第に解析を経時変化を伴う現象へと発展させていく手法が現実的であると考えられる。したがって,小規模実態調査でも,大規模実態調査でも,調査対象の経時変化の解析を系統的に推進する必要がある。そうすることによって,情報交換を時空内の軌跡と捉えるIFM(相互作用する場のモデル)と整合性の取れた解析を実現することができる。 平成25年度は取りまとめの年である。本研究課題に示したモデルを構築するためには,①有効な調査項目の確定と調査手法の確立,②IFMの確立,③組織モデルの確立,④成果の取り纏めと公表,そして,⑤今後の研究課題の確定と次期研究計画の設定が必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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