本年度の研究では、投資家と経営者の間の情報非対称性の観点から、特にプロジェクトの意思決定が行われたことを前提に、必要な投資資金の調達の観点から分析を行った。 上場企業が投資資金を株式の発行によって調達するケースSEO(Seasoned Equity Offerings) について取り扱った。従来からSEOの実施に関するアナウンスは、経営者からのシグナリングの側面を持ち、投資家と経営者の間の情報非対称性の解消に資するという観点で理論的な分析が行われてきた。一方で欧米の実証研究では、SEOの実施がアナウンスされると約2%程度株価が減少(負のアナウンス効果の発生)することが報告されており、上記の理論との整合的であることが報告されている。しかし、本邦では正のアナウンス効果の存在が報告されてきた。申請者は、株式発行決議から、払込みの間の期間短縮が可能となる法改正の影響を加味して本邦でも負のアナウンス効果が観測されることを示してきた。 この改正はSEO株式の価格決定に際しブックビルディングを利用することを想定している。しかしながら、ブックビルディングの過程で機関投資家に対して実施されるプレヒアリングの情報を用いたインサイダー取引の懸念が指摘されてきた。SEO情報を得た投資家は、既発証券を空売りすることで、既発証券の価格を低下させ、この価格がSEO価格の低下をもたらすことを利用してインサイダー情報による利益を確定できるとされる。本研究では、SEO周辺の価格変化を分析するとともに、この取引がSEO株式の先渡契約のロングポジションと既発株式の空売りであることに着目し、投資家が空売りによって得る利益の下界を、先渡価格のコンビニエンスイールドとして推定した。
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