本研究は4ヶ年計画で実施される.最終年度に当たる平成24年度の研究概要は以下の2点である.第1に,「安全文化(Safety Culture)」という概念を構成する「報告する文化」について理論的検討を行なった.具体的には,「報告する文化」を醸成する際の障害となりうる従業員の報告活動を阻害する要因について検討した.「安全文化」とは,安全を指向する文化であり,1986年に発生したチェルノブイリ原発事故に関する国際原子力機関の報告書において初めて示された概念である.そして,「報告する文化」とは,潜在的な危険と直接触れ合う従業員が自らのエラーやニアミスを報告しようとする組織の雰囲気を指し,安全文化の構成要素として指摘されている.また,多くの企業研修において,「風通しの良い組織」や「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」などのキーワドを用いて報告する文化の醸成が図られており,企業事故防止の重要な要因として位置づけられている.理論的検討の結果,従業員の報告活動を阻害する要因は,露見可能性(報告しなかった問題が顕在化し,かつ,責任が問われる可能性)であることを明らかにした. 第2に,インタビュー調査に基づき,報告する文化の先行条件について検討を行なった.検討の結果,報告する文化の先行条件として,記録活動(記録主義)を提示した.組織においては,従業員の活動を記録する様々なツールが存在する.これらの様々な記録が行なわれることで,露見可能性を高め,従業員の報告活動が促進される可能性を指摘した.
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