研究課題/領域番号 |
23530459
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
水村 典弘 埼玉大学, 経済学部, 准教授 (50375581)
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キーワード | 経営倫理 / 不祥事 / 意図 / 意思決定 / 意図せぬ不正 / 食材偽装問題 / 行動倫理学 / 倫理観のフェーディング |
研究概要 |
過年度に立てた研究の推進方策に沿って本年度の研究に従事した。本年度中の研究成果については、日本経営学会関東部会(報告タイトル「ビジネス倫理と行動倫理学のフロンティア―新領域の創成と展開―」[2013年10月26日][於:中央大学多摩キャンパス])で報告している。 本年度中は、「規範的な企業倫理アプローチ」(Behavioral Business Ethics Approach:以下BBEアプローチと表記)の死角に入って見過ごされていた論点に光を当ててスポットライトを浴びた「企業倫理の行動学的アプローチ」(Normative Business Ethics Approach:以下NBEアプローチと表記)の形成過程と主要な論点を明確化し検証した。次いで、NBEアプローチが前提としている意思決定モデル(①社内や職場に潜む倫理的な課題をそれとして認識する段階、②どのような解決策が倫理の法則に適うのか:倫理的に正しい複数の選択肢のなかから唯一最善の選択肢を慎重に選び取る段階、③最善の一手を打つ意志を固める段階、④[これまでの段階を踏まえて]倫理的な行動をとる段階)の各段階の前提条件をすべて洗い出したうえで、BBEアプローチの主要な論点を明確化し検証した。 どこにでもいるような人がなぜ不正を働くのか…その心理的要因を解き明かした行動経済学など、人間行動にフォーカスした研究が増えている今、企業内の組織人、とりわけごく普通の企業人が意図せぬ不正や悪事に走る心理的要因と組織的要因にフォーカスした研究は時代の要請でもあり、本研究が貢献するところは大きい。また、本年度中に起きた食材偽装問題や冷蔵・冷凍宅配便の常温仕分けなど、「意図的な不正か否か」が問われる事案も増えている。この点から見ても、「なぜ人を意図せずして許されざる行為に手を染めるのか」にスポットライトを当てた研究の意義が十分に認められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を申請した段階ではその存在を認識できていなかった「企業倫理の行動学的アプローチ」と「脳神経倫理学」(Neuro-ethics)の研究に傾倒してきているため、本研究の計画段階で立てていた作業の一部に遅延が発生している。行動倫理学の視点(「倫理的な意思決定はどのようにして歪められるのか」「なぜ人は、自身の規範意識や倫理観とは裏腹に、不正や悪事に走るのか」「なぜ人は意図せずして許されざる行為に手を出してしまうのか」)や脳神経倫理学の視点(脳がヒトの倫理的な判断や行動にどのような影響を与えるのか)に研究資源を充てる行為自体は、本研究全体の価値を損なうことではなく、むしろ本研究の価値を高めるものである。この点について、申請書に記載した研究協力者に照会したところ、問題なしとの判断を得ている。とはいえ、当初計画とのずれが生じていることは事実である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究の成果、特に「企業倫理の行動学的アプローチ」の視点と論点を明確化し検証したうえで、本研究の当初の目的(良い仕事を社内で正当に評価するための基準や指標を明らかにする、良い会社のプラットフォームを明らかにする)に対して、「企業倫理の基盤となる制度の実効性を高めるためには、意図せぬ不正や悪事に走る人の心理的要因と組織的要因を検出・分析し、既存の人事評価・報酬制度と倫理諸制度とのリンクの貼り方に修正パッチを当てるか、さもなくば企業倫理の基盤となる制度を再設計する必要がある」という結論を導く方向で本年度中に本研究を完結する。
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次年度の研究費の使用計画 |
補助事業期間最終年度に予定していた海外出張が公務のため取りやめとやり、本研究申請時に想定していなかった未使用額が発生した。 海外出張に要する費用と、本年度中の研究遂行に必要な物品および企業倫理関係図書の購入費用に充てる。
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