研究課題/領域番号 |
23530460
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
周佐 喜和 横浜国立大学, 環境情報研究院, 教授 (50216149)
|
研究分担者 |
曹 斗燮 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (20262834)
銭 佑錫 中京大学, 経営学部, 教授 (00329658)
二神 枝保 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (10267429)
|
キーワード | 国際競争戦略 / 海外子会社の役割 / 日系一般電子部品メーカー / 企業間取引関係 / 多国籍企業の組織 |
研究概要 |
2012年度は、前年度の調査結果の整理・検討を進めるとともに、ベトナムにおいて訪問調査を実施した。 調査の結果、日系電子部品メーカーは、絶えざる技術革新と製品・事業分野の入れ替えにより、競争優位を維持・向上させてきたが、それを可能にしたのが、セットメーカーとの新たな関係の構築と、積極的な海外事業展開であることが明らかになった。特定の日系セットメーカーへ過度に依存することを避け、海外のセットメーカーも含めた新たな取引相手を絶えず求めることで、経営戦略と組織能力の変革が可能になったのである。そして、海外事業において、日本で蓄積されてきた技術などの経営資源の移転のみに頼らず、海外事業で独自の経営資源や組織能力の構築を図るという積極的な姿勢が、海外事業のみならず、全社レベルでの経営戦略や組織能力の変革を支えていたことが明らかになった。このような海外事業拠点では、日本人派遣社員だけでなく、現地採用の従業員の育成と登用に努力が注がれていた。単に工場のオペレーションの管理にとどまらず、研究開発部門や顧客企業との関係構築、さらには海外事業の戦略的意思決定にも現地採用の人材が貢献していた。また、重要な海外戦略の意思決定機能自体を、日本本社から東南アジアに移して、経営の機動力を高めようとする試みも見られた。 ただし、こうした経営努力にもかかわらず、日系電子部品メーカーの経営成果は、不安定であることも判明した。顧客企業の分散化の努力にもかかわらず、セットメーカーの寡占化が進行し、その影響力が大きくなる現象が見られた。このような中で、さらに経営成果を向上させ、企業成長を実現していくために、さらに大胆な国際経営の見直しが求められている可能性を指摘できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2012年度は、日系エレクトロニクスメーカーの大規模なリストラクチャリングが報道された。この動きはセットメーカーだけでなく、部品メーカーも同様で、事業拠点の閉鎖や人員整理の動きが相次いだ。このため、調査対象の企業側から受け入れ許可を得る上で、大きな困難が生じた。これに加えて、日系エレクトロニクスメーカーの最大の進出先となった中国で、日本との外交問題に伴い、大規模暴動が発生したことも、調査計画を狂わせる要因となった。本件のような学術調査を実施するためには、企業側の受け入れ態勢が整う必要があるので、調査対象企業や調査対象地域を、計画から変更する必要が生じた。そのため、当初の計画通りの調査を実施することができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた調査結果をさらに充実した成果に結び付けるために、訪問調査を継続する。その際、前年度までに実施を一時的に断念せざるを得なかった調査対象企業にも調査依頼を行うとともに、まだ調査を実施していない国や地域でも調査を計画する。また、比較検証対象として、海外の部品メーカー、ならびに自動車部品など他産業の企業も適宜、調査対象に加える。 調査対象項目としては、計画当初からの項目である、①製品技術・生産技術の改良・開発、②現地におけるセットメーカーやサプライヤーとの関係構築、③本国本社や他の海外子会社との関係の変化、という三つの項目を重点的に取り上げる。なお、第三の項目に関しては、日本国内でも本社を中心として、聴き取り調査を実施していく予定である。また、世界的に産業の競争構造が研究計画作成時点と比べて大きく変化している現状を考え、今後のグローバル戦略の変化についても、聴き取りを強化していく。 また、研究計画の最終年度を迎えるに際し、成果の発表方法についても、検討を進める予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
先に述べた通り、前年度は、内外の事情で、企業の訪問調査を断念せざるをえなかったため、研究費の支出も予定よりも少なくなり、残額が発生することとなった。今年度は、前年度の断念した分の調査を組み込むことで、残額分の研究費の支出を行う計画である。 前年度までに得られた調査結果をさらに充実した成果に結び付けるために、訪問調査を継続する。第一に、日本の本社や主要事業拠点(海外工場のマザー工場機能を持った拠点など)を訪問し、海外事業の課題をどのように認識し、対応しているのかを調査する。第二に、これまで十分な訪問調査が実施できなかった国や地域を選んで、海外事業展開の課題について、聴き取り調査を実施する。調査対象地域としては、インド、タイ、インドネシア、台湾、欧米先進国などを考えており、この候補の中から一つか二つを選定することになると考えられる。第三に、これまで調査した国や地域での再調査も考えている。中国など、戦略上の重要拠点では、短い期間の中でも、経営の見直しが行われていると考えられ、こうした変化を抑えるための追加調査という位置づけである。第四に、得られた調査結果をまとめて発表するための準備として、研究会を適宜、開催する。今年度も、前年度までと同様、このような旅費を中心とした支出が中心となる見込みである。 他の物品費・謝金などに関しては、研究成果のまとめをする過程で、必要に応じて使用する予定である。
|