研究課題/領域番号 |
23530480
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
影山 摩子弥 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 教授 (80214279)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 障がい者雇用 |
研究概要 |
当研究は,企業に雇用された障がい者が企業に正の経営上の効果をもたらすことを実証するとともに,効果が出る条件を明らかにすることにある。効果が出る条件いついては,接触性に着目した。そこで,研究の方法としては,健常者社員へのアンケートに基づき,障がい者社員と接触する健常者社員の主観的認識をとおして,障がい者の能力を明らかにすること,および,障がい者が仕事満足度や精神健康度に影響を与えているかどうかを通して,客観的に明らかにすることを企図した。 アンケートは,「障がい者との社外でのプライベートな接触の有無」,「障がい者社員との社内での接触の有無」,「精神健康度を尋ねるGHQ12項目の質問」,「仕事の満足を訊く18の質問」,「障がい者の能力に関する印象を訊く15の質問」を設定した。回答は,WebPageへのアクセスでも,紙ベースでも可能とした。 H23年度は,横浜を中心に17社の企業に協力してもらい,962の有効回答を得た。データを分析したところ,接触度が深い場合に,障がい者の能力に関する認知に有意な差が出ることがわかった。さらに,「精神健康度」や「仕事満足」に関する尺度にも有意な差が見られた。さらに,企業から,業界内平均に比した自社の業績評価をたずね,有意な差があるか分析したとこ炉,障がい者の能力が認識されたいる企業では,相関係数は低いものの,有意に業績が良かった。そこで,障がい者は,仮説のような能力を持つこと,それによって,企業の業績がわずかでも良くなることがわかった。 ただし,23年度は,わずか17社のデータであり,国内だけでも膨大な数の企業がある中で,統計学的処理を行うには,説得力に欠けることは否めない。24年度は,中小企業家同友会に協力を仰ぎ,さらにデータを集める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(2)を選択した理由を1~3に,課題を<課題1>~<課題2>に記す。1.障がい者雇用の分野は,企業にとっては,「鬼門」である。その証拠に,横浜商工会議所からは,「このような調査には協力できない」と断られた。また,雇用していなかったり,法定雇用率を達成できていない企業だけではなく,法廷雇用率を達成している企業からも,断られたり,協力してもらったものの,考えてもみなかったクレームが来ることもあった。その中で,17社が協力してくれたことは大きな成果である。2.当研究の仮説を立証するデータが得られている。当研究は,研究代表者が知る限り日本で始めてのものであり(類似のアンケートを設定した調査は日本でもあったものの,対象企業の1名に答えてもらうだけであり,統計学的分析もそれほどなされていない),海外にも例を見ないものである(オーストラリアの研究者が経営者のインプレッションを訊いた調査はあった)ため,期待される結果が出るか不安であったが,おおよそ期待できるデータを得ることができた。3.当研究は,学術的意味もあるが,ダイバシティを進めることに貢献しうる研究であり,広く社会の役に立つ可能性がある。前者のためには,学会報告などが必要であるが,後者の目的のためには,関連の情報誌やWebなどで公開していく必要がある。この点では,CSRの専門雑誌であり,Webでも活動を展開している「オルタナ」という雑誌から,調査についての中間結果について取材を受け,「中間報告」という形で記事が掲載されている。<課題1>協力企業数が少ないことである。当研究では,企業業績との関連も分析する予定であるが,統計学的には可能であるものの,社会的説得力の点では更なるデータが必要である。<課題2>障がい者の意味に気づいている企業は零細企業が多く,サンプルに占めるデータ量が小さくなるため,このような企業からのデータが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
1.当研究のためには,障がい者の意味について気づいている企業からデータをとる必要がある。23年度もある程度とることができたが,絶対数が小さく,サンプル全体の中に埋もれてしまっている感がある。実体を反映するために,このような企業が多く加盟する中小企業家同友会に協力を依頼し,調査を進める予定である。そのために,これまで以上に,研究・調査活動の地理的範囲を拡大する必要がある可能性が高い。2.それとともに,そのような企業の社員から多くのデータを集める必要がある。23年度はある程度のサンプル数を得られたが,当初想定していた業界や業種でお願いできたわけではなかった。組織内マクロ労働生産性効果は,ホワイトカラー労働の現場で現れやすく,もっとも認識されやすいと考えるが,協力してくれた企業は数十社に1社程度であったためである。今年度も精力的に,協力してくれる企業を探す予定である。特に,中小企業家同友会加盟の中小零細企業に,障がい者の能力や雇用の経営上の意味を認識している企業の紹介を依頼する予定である。3.このような研究の結果は,学術的に意味があるため,24年秋の「経済理論学会」において,23年度の研究結果を中間報告という形で発表する予定である。ただ,当研究は,学術的意味があるだけではなく,障がい者雇用を促進する意味もある。そこで,情報誌やWebなどで,研究結果をわかりやすく社会に伝えていく必要がある。上記のように,中間結果については,CSRの専門誌である「オルタナ」の取材を受け,一部を掲載してもらった。最終結果についても何らかの形で,掲載してもらえるよう依頼するつもりである。4.研究成果は,積極的に社会に伝える一環として,大学初ベンチャーとして設立した「横浜市立大学CSRセンター」での,企業コンサルティング業務に生かしてゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.障がい者に関わる研究は,福祉分野だけではなく,医学などにもわたり幅広い。障がい者雇用の研究に限定していたとしても,学術的知識から実務的知識にいたるまで,幅広い知識が求められる。企業に協力依頼に行く際には,かなり実践的な知識も問われる。23年度は,ある態度の知識を得ることはできたが,不十分である。このような知識を得るための文献や資料に精力的に目を通すことが必要である。しかし,それだけではなく,障がい者雇用の現場を,実際に深く知る必要もある。後者については,横浜近辺を考えているので,旅費はかからないが,障がい者雇用の実際を反映した問題意識を形成することも可能と考えている。2.より多くの企業の会社データや社員のアンケートデータを得るためには,これまで横浜を中心として依頼してきた作業を,地理的に拡大する必要がある。23年度も,長野,石川,富山,福島から協力を得たが,さらに,精力的に出向く必要があると考えている。目的に合致した企業で,協力を申し出てくれる場合には,日本全国どこにでも出向く必要がある。3.23年度の調査結果の入力作業は,自分でも一部行ったが,かなり大変であった。入力作業については,なるべく学生などのアルバイトに任せることとし,自身は,協力依頼や分析作業に時間をあてることとしたい。4.分析用のソフトは,SPSS20.0とAMOS20.0を使用しているが,表計算ソフトはKing Softを使用している。そのため、2元配置分散分析ができないなどの制約があることに加え,ある列を降順などで並び替える際,他の行が連動するように設定していても,データがうまく連動しないことがある。統計処理のためには致命的な問題であるため,MS社のものを使用する予定である。5.企業との連絡は,メールが中心となるが,研究成果や中間報告は,送付せねばならず,かなりの通信費がかかる。
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