研究課題/領域番号 |
23530481
|
研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
北島 啓嗣 福井県立大学, 経済学部, 准教授 (60398980)
|
研究分担者 |
崔 容熏 同志社大学, 商学部, 教授 (70315836)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | 所有権 / 比較制度分析 / 百貨店 / 共同組合方式 |
研究概要 |
本年度は、日本のSCのマネジメントの実態を、他業態、業種との比較を行いつつ定性的・定量的に分析した。特に、他業態との比較として、百貨店との所有権システムの分析を行った。 特に、SCの主要商品であるアパレルの商品特性では、ブランドのイメージがきわめて重要であり、それがいわば収益の源泉である。アパレル企業が選択すべき主たるチャネルは、SCと百貨店であり、それは主として契約形態によって区別されてきた。一方で、そのブランドは、それを取り扱うSCまたは百貨店等のビッグストアの行動に影響を受ける。従って、そのブランドの経済学的な意味での所有権は、アパレル企業に全て帰属するわけではない。 特に、所有権が移転することが明確な買取契約制度では、そのブランドをビッグストアが値下販売することによって、簡単に毀損し得る。これを嫌ったアパレル企業は、委託契約によって、商品の所有権を留保し、また、消化契約または家賃契約によって、販売時までの商品の所有権を確保し、そのブランドの所有権の内部化に成功した。これが、SCが有利となる大きな要因である。 対して百貨店は、その所有権構造から、売り場の所有権をアパレル側と共有している。これは、ビッグストア全体の統一感を高め、顧客から見た場合のブランドの価値を向上させる。しかし、そこには多くの調整コストがかかり、そのコストがブランド価値向上に見合うものなのかが課題となっている。 換言すればこれらの調整コストを必要としないことがSC躍進の大きな要因といえる。それらのコスト上の有利さが、さらに有利な家賃契約を提示することを可能にする。 これらの分析は、書籍所収の論文の形で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の達成度は、概ね順調といえる。 しかし、SC業界の変化は激しく、新規の出店、リニューアル、システムの進化などが相次いでいる。競争の激しい環境にある一部のSCでは、アパレル側の所有権構造の一部を留保し、コストをかけてMDの一部等や共同広告等に取り組む事例がある。フロアにMD面の調整あるいは指導権限を持つSC側の担当者を置くなどのマネジメントの強化である。その志向のベクトルは、SCの所有権を拡大し、調整のためにコストを掛ける方向にある。また、専らイン・ショップの責であろうクレームが発生した場合でも、その処理にも参画し、店舗全体のブランドイメージを向上させる動きもある 百貨店は、共有する所有権構造のなかで余分なコストをかけた過剰な調整を行い、昨今それを削る動きが顕著である。逆に、多くのSCは、アパレル側が所有権を画定する意識が強すぎるという反省からむしろ、調整を増やす方向にある。 現代のビッグストアにおいては、SCが調整のためにコストをかける方向へ、百貨店が過剰な調整コストを減じる方向へ移行しつつある。調整を強めれば、店舗面積あたりの売上は増加する。しかし、それには人件費をはじめ多くのコストを必要とする。その調整の程度および、百貨店の調整のうち何が過剰で、SCの調整に何が足りないのか。これを明らかにした上で、アパレル企業は契約および取引慣行を進化させる必要がある。これが、アパレル企業がチャネルを選択し、契約を結ぶに当たっての大きな課題といえるだろう。 こうした課題にキャッチアップし、来年度以降明らかにしていく。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、共同組合型のSCに注目していく。また、海外への視察を加速していく。 GMS、ディスカウンター等の台頭により、零細過多といわれた日本の商店は大きく変貌した。その変貌の一つの形として、複数の商店が、高度化、近代化を目指しSCを自ら地域主導の形で作った事例は多い。 その背景には、商業政策がある。中小小売商業振興法は、商店街の整備・店舗の集団化・共同店舗等の整備等を通じて、中小小売商業者の経営を近代化することで、中小小売商業の振興を図り、それにより、多様化する国民(消費者)のニーズに応えることを目的とした法律である。中小小売商業振興法の中心は、振興指針に基づいて進められる「高度化事業計画」にある。これらは、商業の共同化、協業化を目指すものであるが、その中に「店舗共同化事業」があり、これに基づくSCは多く存在する。特に福井県には、1970年代の終わりから、1980年代に、この方式でのSC開発が多い。福井市に開設されたSCは、いずれも大手流通資本が主導権を握ることなく、むしろ、当時の大手の流通、ダイエーの福井進出に対抗、あるいは、阻止を目的にしていた。地元の小売商が自らその開発者となったSCである。また、このことは、地元主導型のSCとして、当時、全国的にも注目された。 海外比較については、研究代表者のこれまでの中国のSC等への調査を踏まえて、上海等だけではなく、これから進出が予想される内陸部の各都市、ベトナム等周辺諸国を視野に入れ、主として日系の企業が、SCあるいは百貨店あるいはその他の業態での進出を選択するのか、またその判断がいかなる根拠に基づいて判断されるのかを問うていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
24年度以降、研究計画前半において、これらの課題について、聞き取り調査を中心として定性的に把握する。また、それと平行して、SCがテナント募集のために公表している公開情報、特に家賃、出店条件等の情報を収集し、後半に行う定量的な状況分析のための基礎とする。研究代表者が福井に在住し、研究対象であるSCの本社は首都圏に存在し、あるいは店舗が各地に点在するために、比較的多額の旅費を必要とする。夏期休暇および春期休暇の講義が少ない時期に集中的な聞き取り調査を実施し、経費の効率的な使用に心がける。 海外調査については、相手企業によって本年度どこにいるのかは未定であるが、候補として、1.アメリカ、2. 中国 3.ベトナム・シンガポール等その他アジア を本年度、来年度に順次実施していく。 国内調査については、当初は、大都市圏にあるSC運営の本社へのヒヤリングを中心に設定していたが、加えて、地方都市に存在する「組合型SC」への調査も検討する。これは、新たな課題として浮上したテーマに基づくものである。 また、成果の国外での発表を検討している。そのための費用が必要になる可能性がある。
|