日本企業は現在、雇用形態、採用制度、評価システム、報酬システムなどといった人的資源管理諸制度の見直しを行っているところであり、変革期にある制度の設計や運用のためには、公正という視点が必要不可欠である。しかし、人的資源管理における組織的公正研究の応用は、現状では評価プロセスなどの限定された範囲でしかなされてきていない。そこで、本研究では、日常の職務を通じて知覚する公正感を包摂する理論枠組みおよび分析モデルを措定し、これに基づいた実証分析を行った。 この分析結果から、組織内で情報が流れる仕組みや情報獲得のコストは、組織的公正の各構成次元にたいして影響を与えていることが明らかとなった。情報の正確性すなわち情報の質そのものが分配的公正にたいして、より大きな影響を与えており、一方、情報の流れる仕組み、情報獲得のコストといった情報のフローに関する要因が、手続き的公正にたいして、より大きな影響を与えていることが明らかとなった。本研究の経営の実践レベルにたいする含意を示せば、組織成員の公正感を高めるためには、評価制度のみに着目してその設計について考えるだけでは不十分であることが指摘できる。すなわち、組織成員の公正・不公正の認知には情報やコミュニケーションが影響を与えており、評価制度を整備したとしても、情報の流れと仕組みが整備されておらず、伝達される情報の質が低く、コミュニケーションの量や頻度などが低ければ、組織的公正の認知は高まらないということである。このことから、公正感を高めるような職務構造の設計の重要性を指摘することができるであろう。
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