本研究は、最低賃金の引き上げにより、最低賃金もしくは適用除外により最低賃金を下回る賃金で働いている知的障害のある労働者に対して、企業はどのような経営行動をとるのか、その実態を明らかにすることを目的としている。 調査対象は障害者を雇用することを目的に障害者雇用促進法の規定により設立された特例子会社と社団法人全国重度障害者雇用事業所協会(324社)である。調査の視点は①企業は雇用を抑制するのか、②適用除外とする労働者の対象を広げるのか、③生産性を上回る賃金でも法令遵守を重視する企業イメージを維持するコストとして容認するのか④技能形成を促し、職域拡大による生産性の向上を模索するのか、である。 仮説の構築と作業仮説を設定し、作業仮説を実証する有効な測定指標を得るため平成23年度、平成24年度は大手精密機械メーカーの特例子会社OT社、大手学習支援サービス企業の特例子会社B社、大手情報サービス企業の特例子会社RS社と特例子会社約30社の経営者およびマネージャーが集う研究会(NPO法人障がい者ダイバーシティ研究会)と通じて経営者へのインタビュー調査を実施した。 現段階の分析ではあるが、大企業を親会社にもつ特例子会社においては2009年から2013年の間に雇用が減少したとはいえない。できる仕事の幅を広げる、労働者側の訓練努力と企業側の新規業務獲得と職域拡大の努力および労働時間の調整により企業負担の軽減を図っていた。一方で中小企業も含まれる全重協調査では、中小企業において抑制的な傾向(採用時の最低賃金適用除外申請や採用の見送り)が見られた。また、インタビュー調査では、これまで雇用してこなかった精神障害者の雇用を検討する企業の存在が確認できた。本調査では精神障害者の賃金も最低賃金近辺であった。
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