研究課題/領域番号 |
23530495
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
磯辺 剛彦 慶應義塾大学, 経営管理研究科, 教授 (30289110)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際経営 / 多国籍企業 |
研究概要 |
産業(ポジション)、海外子会社や親会社(経営資源)、現地国(制度)による海外子会社の経営成果への影響を比較した。これまでの経営戦略研究では、産業と経営資源による事業部門の経営成果(売上高利益率)への影響を測定、比較することに注目してきた。ただし、海外子会社の経営成果は、産業や経営資源以外に、現地国の制度環境にも影響を受ける。もし、現地国の影響力が無視できないくらいに大きければ、産業や経営資源をベースとした戦略に加え、制度をベースとした戦略の重要性を示すことができる。次に、現地国の制度的な発展の度合いと海外子会社の経営成果(利益率とそのバラツキ)の関係について分析した。前章は、「現地国間」での海外子会社の利益率の違いに注目するが、本章は「現地国内」での利益率のバラツキにも注目した。具体的には、各機関で公表されている経済的、政治的、文化的な制度データを使って各国の「制度発展指標」(institutional development index)を作成し、海外子会社の利益率とそのバラツキとの関係を分析した。さらに、日本企業の海外直接投資によるリスクとリターンを現地国ごとに可視化した「現地国のポートフォリオ」を提示した。最後に、進出した現地国の国内地域と海外子会社の経営成果の関係について調査した。この研究では、米国(先進国)と中国(新興国)の州、省、自治区、大都市を国内地域と定義し、地域による海外子会社の経営成果(利益率とそのバラツキ)への影響を、産業、海外子会社、親会社による影響と比較した。さらにサンプルを中国と米国に分類することによって、先進国と新興国の国内地域による海外子会社の経営成果への影響の強さの違いについても分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究が予想以上に進捗している理由として、海外現地法人のデータが予想よりも早く入手できたこと、データベースの整備や加工が問題なく行えたことがあげられる。特に、神戸大学経済経営研究所が所有する「海外進出企業総覧(東洋経済新報社)」の提供を受けた。このデータベースには、日本企業の海外現地法人のパネルデータ(1986年から2010年)約40万社の情報が記載されている。本研究ではデータベースの構築が重要な要件になっていた。次に、海外現地法人の売上高利益率を目的変数とした分散構造分析が容易に進んだ。上記のように、10万サンプル以上を分析する場合には数ヶ月の分析期間が必要になる。しかし、データベースの整備が上手くできていたこともあり、予想よりも早く分析結果を導き出すことができた。さらに、本研究で必要となる文献サーベイの整理が予想以上に進んだこともあげることができる。
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今後の研究の推進方策 |
最初に、多国籍企業による海外子会社の設立について分析する。多国籍企業による海外進出に関する研究の多くは、コストや市場規模といった経済的な要因や自社独自の戦略を重視してきた。その一方で、参入の意思決定は競合他社の過去の参入や撤退にも影響される。この章では、正当化プロセス(多くの外国企業が参入することによって、その活動や組織構造が現地の利害関係者から適正であるという評価を受けること)と、競争プロセス(多くの外国企業が参入することによって、現地の経営資源をめぐって過当競争が行われるようになること)の2つの概念を使って、企業がどのようなメカニズムで海外市場への参入を決定するのか分析する。次に、海外子会社の出資構造について分析する。本研究では、現地での外部的な制度圧力が強い場合、現地から正当性を獲得する見返りとして多国籍企業は低い出資比率を受け入れることを議論する。現地市場の正当化についての情報に乏しい多国籍企業は、すでに現地に設立された競合他社の出資比率を参考にすることで、現地による正当性の要求の強さを判断する。その一方で、企業は自社のルールに基づいた組織内部における正当性を維持しようとする。その結果、海外子会社の出資比率は、組織外部からの正当性と組織内部の制度環境の正当性のバランスによって決まることを仮説とする。最後に、海外子会社の撤退の要因について、設立当初の目的を達成することによる「意図した撤退」と、設立後の予測できない出来事による「意図しない撤退」に分類する。特に、海外子会社の設立から撤退までの存続期間が、設立目的、合弁企業が設立された当初の状況、そして合弁企業が遭遇した不測の出来事の内容によって影響されることを分析する。加えて、日本企業の完全株式所有子会社と現地企業との合弁会社の撤退理由についても比較、検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費の支出について、最初に、海外の学会出張を予定している。昨年度の研究実績を発表するため、本年6月29日から7月3日まで米国ワシントンD.C.で開催される国際経営学会(Association of Japan Business StudiesとAssociation of International Business)、そして12月10日から12日まで韓国のKorea Universityで開催されるAsia Academy of Managementにおいて発表する準備を進めている。日本の学会においては、10月27日と28日に予定されている国際ビジネス研究学会に出席する。第二に、日本の多国籍企業による重要な意思決定である、海外進出のモチベーション、進出国先・立地の選定、現地企業とのジョイントベンチャーにおける出資比率、および徹底についての聞き取り調査を行う予定である。これらの聞き取り先については、日本国内において首都圏や関西の企業を中心に10社程度を予定している。なお、聞き取り調査と並行して、約100社の多国籍企業に対する質問票調査を行う予定である。質問内容については、上記の進出動機、進出先国の選定、撤退についてである。第三に、多国籍企業の意思決定について組織理論、あるいは社会学理論からアプローチした既存文献を整理する。その多くの文献はインターネット書店のAmazon.comから購入する予定である。さらに、日本と進出先国の地理的、政治的、文化的、地理的な距離と企業活動や利益率の関係を調査するために国家間の距離を測定するが、その基本となるデータベース(たとえば、International Country Risk Guide)を購入する。最後に、複写用紙、プリンターのトナーカートリッジ、データベースを保存するためのUSBメモリ等に研究費を支出する予定である。
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