「進出先国とその地域の違いは、海外子会社の経営成果の違いをどの程度説明するのだろうか」「現地国の制度的な環境は、海外子会社の経営成果とどのように関係するのだろうか」「海外子会社の所有構造はどのような論理で決まるのだろうか」「海外子会社の設立や撤退を決意させる動機や要因とは何だろうか」「成長著しい新興国で競争優位を築くには、どのような戦略や経営資源が必要なのだろうか」 本研究は、上記のような多国籍企業の経営に関する疑問について、新制度派理論の観点から明らかにすることを目的とした。制度理論では、社会の公式的ルールと非公式的ルールが組織構造や行動を規定すると考える。公式的ルールは法律や法令など直接企業の組織や活動を規制する「規則」を示し、非公式的ルールは社会的に受け入れられている価値観など、社会的に望ましい行動の「規範」を示すものである。たとえば、企業にとって社会的責任や環境経営が重要な経営課題になっているが、どの企業もこれらの社会的な要請を無視した行動をとることはできない。社会的な価値観に反した経営行動をとれば、それが法令や規則に違反しなくても、不買運動に発展したり、ブランドイメージに悪影響を及ぼすことがある。つまり企業の経営行動や戦略は、社会的な価値観から逸脱できないのである。 多国籍企業が海外進出する際に、現地国やその国内地域、あるいは現地の産業の制度環境に関する十分な情報をもたないことが多い。本研究では、そのような不確実な状況において、多国籍企業は成功している他の企業、特に同じ国に本社をおく競合他社の過去の行動や経験から学習しようとする。つまり、自社独自の戦略ではなく、競合他社の行動をシグナルとして捉え、自社の意思決定の根拠にすることがある。このような状況では、いわゆる模倣による同型化が生じ、多くの多国籍企業の経営行動や意思決定が似通ったものになることを明らかにした。
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