研究課題/領域番号 |
23530496
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
加藤 寛之 国士舘大学, 経営学部, 准教授 (10410888)
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研究分担者 |
具 承桓 京都産業大学, 経営学部, 准教授 (20367949)
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キーワード | 資源蓄積 / 競争戦略 / イノベーション / 製品ライフサイクル / 雁行形態論 / サプライヤーシステム |
研究概要 |
本研究の目標は「日本の産業発展の縮図」としての造船産業を対象に、日本韓国中国の造船産業の主要プレイヤーの資源蓄積(人事制度含む)と競争戦略 競争優位の推移の背景を資源蓄積状況および人事制度に着目し、また各プレイヤーの戦略と行為を立体的かつ横断的に分析することにある。 具体的には、製品は成熟化・標準化しながらも新興国の経済成長を背景に市場が成熟期から成長期に戻ることがあり、その際に既存の有力企業は市場再拡大の機会をとらえることが困難な状況に陥ることが造船産業の例からうかがえるが、本研究はそのメカニズムの解明を試みている。国内大手は1990年代にもっとも資源蓄積のある企業群だったが、90年代の市場再拡大の機会をことごとく逃している。豊富な資源蓄積・人材を有していながら市場再拡大期になぜ活かせなかったのかにかんして、多角化戦略の成否とそれにまつわる人事制度と人材配置の推移について40年分の資料を用いて分析している。また、日本の大手が市場再拡大期に成長機会を生かせなかった一方で、非上場の中手の一部企業は近年、韓国中国企業を上回るペースで飛躍的に成長しており、その成長を可能にした戦略とさまざまなイノベーション、それらを可能にしたサプライヤーシステム変革の試みについて明らかにしようとしている。また、韓国主要企業の大型設備投資戦略の背景についても明らかにしようとしている。 以上を踏まえ、本研究では具体的な研究課題として①日本造船産業における主役交代劇の要因分析、②造船のサプライヤーシステムの構造と機能の分析、③韓国・中国造船業の発展メカニズムと競争戦略の分析、④日中間の造船産業の競争比較分析の4つを掲げている。上記のうち24年度は具体的には①主役交代劇③韓国中国造船産業の発展メカニズムと競争戦略の分析に注力し、成果を論文として数本公開しており、論文の中には査読論文も含まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科学研究費の2年目あたるが、初年度からの研究の成果が着実にアウトプットに結実しつつある。その中には査読論文も含まれる。具体的成果としては次の5点である。 第一に、査読付き論文として「造船産業の競争構図の変容と雁行形態論・塩地モデルの再検討」(『アジア経営研究』)が公開された(加藤・具共著)。論文中で中手企業の躍進の背景となったさまざまなイノベーションに言及している。第二に「韓日造船産業における競争力構造変化の要因分析」(朴・朴・柳町編著『韓日産業競争力の比較』第8章、ソウル(韓国語))が韓国で出版された(具・加藤共著)。論文中で公開データによる韓国と日本の造船産業の比較について言及している。第三に、「船舶開発と造船産業─大型人工物の制約とビジネスシステムの不確実性」(藤本隆宏編著『「人工物」複雑化の時代─設計立国日本の産業競争力』第12章、有斐閣)が出版された(具・加藤共著)。論文中で巨大人工物としての船舶の開発の特徴と造船産業が埋め込まれたビジネスシステムについて言及している。第四に、「工程間分業のリンクとプロダクトサイクル・雁行形態論」(『経済研究所紀要』国士舘大学)が公開された(加藤単著)。論文中で、造船産業における国をまたいだ工程間分業について言及している。第五に、「日韓造船産業の競争力転換とその要因分析―成熟産業における製品戦略と多角化戦略の罠―」(『東京大学ものづくり経営研究センターディスカッションペーパー』)が公開された。論文中で韓国大手造船企業の大型設備投資の背景について言及している。 着実に研究成果を公開できるようになった背景には、国内のみならず、韓国での大手造船企業およびサプライヤーのトップマネジメント層へのヒヤリングが実現できたことが大きいと思われる。またこれは、次年度の研究の基礎となる。 以上のことからおおむね順調進展していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、本研究の具体的研究課題は、①日本造船産業における主役交代劇の要因分析、②造船のサプライヤーシステムの構造と機能の分析、③韓国・中国造船業の発展メカニズムと競争戦略の分析、④日韓中の造船産業の競争比較分析の4点である。 4点の具体的課題のうち、①「日本造船産業における主役交代劇の要因分析」については査読論文および複数の論文として研究成果が結実するところまで来ている。また、②「造船のサプライイヤーシステムの構造と機能の分析」、③「韓国・中国造船産業の発展メカニズムと競争戦略」については、成果を論文として一部公開できるところまで調査が進んでいる。また、④「日韓中の造船産業の競争比較分析」は①②③の調査研究成果を踏まえて大きな視点でまとめなおす作業であり、現在調査研究中である。 したがって、次年度は次の3点に力点を置いて研究を進める予定である。具体的には、①主要サプライヤーへのさらなる詳細なヒアリングと工場見学を通じてサプライヤーシステムの機能と構造を明らかにすること、②船舶の買い手である海運会社(キャリア)へのヒアリングと公開データ収集を通じて、造船所が直面している市場の特性を明らかにすること、③中国・フィリピンでの造船所およびサプライヤーを現地調査することを通じて、国をまたいだ工程間分業の実態と中国造船産業の実態を明らかにすることの3点である。 今後も精力的にヒアリングを重ね、上記課題達成に向けてまい進する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は予算の最終年度に当たり、上記のように3つの課題を設定している。具体的には、①サプライヤーシステムの機能と構造を明らかにすること、②船舶の買い手である海運会社(キャリア)へのヒアリングを通じて市場特性を明らかにすること、③中国等の造船所の現地調査を通じて、国をまたぐ工程間分業の実態と中国造船産業の実態を明らかにすることの3点である。 これらの課題を達成し、本研究を推進するに当たり、経費の大きな部分を占めるのは旅費と設備費(物品費)である。本研究は研究方法として造船各社の造船所と本社へのヒアリングおよびサプライヤーへのヒアリングを重視している。また、中国・フィリピンでの造船所およびサプライヤーも現地調査する予定である。 したがって、これらにしめる費用(旅費)がかなりの部分を占める。日本国内のサプライヤーは瀬戸内海周辺と長崎周辺に集中し韓国の造船産業は韓国南部に集中し、中国の造船産業も南部沿岸が一大集積地である。これらの造船企業とサプライヤーの本社および造船所へのヒアリング・工場見学を順次行う予定である。また、合わせて収集した資料をデータベース化するため大学院生のアルバイト代と想定している。また、中国においては通訳の費用も予定している。さらに、収集した資料をデータ化して加藤と具で共有するために、スキャナー機能付きプリンターの購入も予定している。 なお、24年度に残額が生じたが、これは23年度からの調査研究が順調に進んできたことを受けて、24年度は研究成果を公表するための執筆を優先したため、旅費や物品、アルバイトへの支払いが予定よりも少額に収まったためである。25年度には再び現地調査を重視するため、旅費や通訳の支出が多く発生する予定である。
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