研究課題/領域番号 |
23530505
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
牛丸 元 明治大学, 経営学部, 教授 (50232822)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 社会ネットワーク分析 / イノベーション / ネットワーク優位性 |
研究概要 |
本研究は、企業の持続的な製品イノベーションを実現するための組織内ネットワークと組間ネットワークとの最適な組合せを解明することを目的としている。そのために,(1)データを用いた定量分析と(2)ヒアリング調査による定性分析を研究実施計画の柱としている。対象は,電子・電機産業である。平成23年度の結果は以下のとおりである。 (1)定量分析に関しては,(1)ベイジアンネットワーク分析の検討と,(2)海外グローバル企業への配票調査の2つを行った。 (1)のベイジアンネットワーク分析の検討は,ネットワークにおけるイノベーションの時系列的伝達パターンを知るために,ベイジアンネットワーク分析がどの程度有効であるかを検討したものである。具体的には,企業間ネットワークにおける企業をノードとして捉えるのではなく,時系列的な因果連鎖からなる変数として捉える直すことにより,社会ネットワークをベイジアンネットワークに置き換えることを試みた。そして,協調と競争のパターンからなる条件付き確率表を提示し,Byonet社開発によるベイジアンネットワーク分析アプリケーションによって,企業間関係の因果連鎖問題を解いた。これにより,ベイジアンネットワーク分析が企業間ネットワークに代表される社会ネットワーク分析にも応用可能であることが明らかにされた。 (2)の配票調査に関しては,日系企業460社に海外郵送し,ネットワーク形成を含む海外事業活動を調べた。158社からの回答を得た。しかしながら,仮説を検証するのに十分な結果を得るには至らなかった。 (2)定性分析に関しては,富士通とデンソーに対するヒアリングを数回実施し,サプライチェーンと企業内の研究開発体制に関する有効な知見を獲得することができたが,更なる調査が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の達成度は,東日本大震災とタイ国の洪水の影響もあり,分析対象である電子・電機産業企業に受け入れ余力がなく,計画変更を余儀なくされた。このことから,全体として65%程度の進捗状況である。平成23年度における当初の研究計画は(1)補完的研究,(2)フィールド調査,(3)報告書の作成であったが,上記の理由から,補完的研究にややウェイトを置いた研究を行った。 (1)の補完研究に関しては,ベイジアンネットワーク分析の有効性の検討によって,仮説検証における分析上の問題点に関しては解決をみた。しかしながら,当初想定していたネットワーク・パターンが,閉じたネットワーク(コールマン型)と構造的空隙(バート型)であったのに対し,補完的研究の結果,ネットワークステイタスの存在が重要であることが判明したことから,ネットワークステイタスを組み入れたネットワーク・パターンを再度分析に投入することを検討している。それと同時に,仮説設定も見直しをはかっている。現在,ネットワークステイタスに関する補完的研究を追加している。 (2)のフィールド調査に関しては,電子・電機産業企業の製品開発担当者およびマーケティング担当者にヒアリングを実施する予定であった。企業数は,10企業を予定していたが,東日本大震災とタイ国の洪水の影響により,ヒアリング計画を大幅に見直す計画となり,ホンダと富士通の2社にとどまった。主として,サプライチェーンにおけるイノベーション伝達に関する情報を獲得した。 (3)の報告書の作成に関しては,論文単著1編,著書1冊・分担執筆,国際学術会議での基調講演1回というかたちでの成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,主とし企業内の製品開発ネットワークに関する。(1)ヒアリング調査と(2)配票調査,(3)国際学会・学術会議での発表を行う。 (1)研究課題である企業内の製品開発ネットワーク構造の解明のために、年度中期に、電子・電機産業企業の製品開発担当者およびマーケティング担当者にヒアリングを実施する(ゲートキーパーへのインタビュー)。10企業(パナソニック、日立、東芝、三菱電機、セイコーインスツル、リンテック、信越化学工業、シチズン電子、カシオマクロにクス、NEC)、20人ほどの担当者を予定している。これにより、企業全般の内部組織における製品開発とマーケティング部門とのリンキングについて把握する。そして,フィールド調査のヒアリング結果を、グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析する。 (2)研究課題である企業内の製品開発ネットワーク構造の解明のために、上記フィールド調査において対象となった企業のマーケティングセクションおよび製品開発セクションに従事するメンバーに対し、配票調査を行う。内容は、セクション内およびセクション間のコネクションの程度(質・頻度)に関するものである。これにより、企業内のネットワーク構造を把握する。そして, 配票調査においてをで実施された企業内ネットワーク調査のデータを分析する。各種中心性指標の分析、密度、構造同値性、平均距離、クラスタリング係数、平均結合相関、グルーピング、ネットワークの安定性等に関する定量的分析を試みる。ネットワーク分析には、UCINETを用いる。 (3)国際学会・学術会議での発表については,9月6日の中国・瀋陽における「第三回中日文化比較研究国際シンポジウム」においてまた,10月26日に台湾・東屏科技大での国際学術会議において研究発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度が企業内部の調査を主としたものであったのに対し。平成25年度は企業間のネットワーク調査に注力する。以下の研究費が発生する。 (1)国内ヒアリング調査費用の発生(交通宿泊費・謝礼金):企業間ネットワーク全体の特性の解明のために、年度前期中に、電子・電機産業に属する技術提携関係企業や、大学等研究機関、販売・流通提携関係企業へのヒアリングを実施する(交通費・宿泊費等の発生)。また,企業訪問することから,土産代が必要である(謝礼金等の発生)。 (2)配票調査費用(印刷製本費・郵送費・アルバイト代)の発生:企業間ネットワーク全体の特性を解明する。年度後期よりフィールド調査の結果に基づき、企業のゲートキーパーが外部組織とどのようなネットワークを構築しているのか、配票調査を実施する(印刷製本費・郵送費の発生)。また,郵送手続き・データ入力のために学生アルバイトを使用する(アルバイト代の発生)。 (3)学会発表関連費(交通宿泊費・日当):研究成果を国内外の学会において発表する。2回ほど計画している。
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