研究課題/領域番号 |
23530508
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
並木 伸晃 立教大学, 経営学部, 教授 (70303104)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 不況 / 戦略的対応 |
研究概要 |
次の2論文を経営行動科学学会の全国大会(2011年11月26-27日、明治大学)で発表しました。(1)「不況環境下での財務的スラック資源と企業業績の関係:2008年米国発大不況と日本電気産業のケース」(2)「日米企業のリトレンチメント(再生)戦略と業績の関係:2008年米国発大不況のケース」 第1番の論文は、財務的スラック資源がいかに不況に見舞われた企業の業績に影響するかを実証研究したものである。財務的スラックとは、企業が特定のアウトプットを生産するのに必要な最小限の資源よりも、多くある資源のことである。つまり、必要最小限以上の資源(例:現金、流動資産)がある経営に余裕のある企業である。この論文では、財務的スラックを大不況が始まる直前により多く持っていた企業の業績が、大不況が始まってどう変化するかを研究した。この研究で、財務的スラックをより多く持っていた企業は不況が始まった直後、より業績(ROA)は下がることが判明した。また、不況突発後約半年後からの回復期間でも財務的スラックをより多く持っていた企業の業績は、持っていなかった企業の業績と余り変わりは無かった。 第2番の論文は、2008年米国発大不況が起こり、業績不振に陥った日米電機企業のターンアラウンド戦略を研究した。特にターンアラウンド戦略の要といわれるリトレンチメント行動(コスト削減)と業績回復の関係を調べた。しかし、ターンアラウンド戦略が選択される環境は、不況環境とは異なる。ターンアラウンドが必要な企業は何らかの理由(例:需要低下、Poor 経営)で数年間かけて業績不振に陥ったのであるから、経営資源に余裕が無い。その反面、不況が理由で業績が悪化した企業は余裕がある可能性が高い。となるとリトンレンチメントするよりは、宣伝費等の費用を増やして市場シェアを獲得するチャンスであるということがこの研究で検証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調である。2011年度は計画通り、主にデータ収集に集中した。財務データの収集、と企業のトップにインタビューした。さらにアンケート調査を2012年春に実行している。それらのデータを使って論文を書き、発表し始めている。発表した論文以外に2本の研究論文を書き終えている。1つの論文「The Role of Slack Reduction on Performance Turnaround during the Great Recession: The Case of Japanese Electronics Companies」は米国の経営関係の学会の大会で発表するつもりで投稿している。発表後は米国の経営関係のジャーナルに投稿する予定である。 もう一つの論文、「不況環境下でのリトレンチメント(再生)戦略と企業業績の関係:2008年米国発大不況下の日米機械企業のケース」は立教大学経営学部出版の「立教ビジネスジャーナル」誌に2011年12月に投稿した。2011年度内に出版されるはずだったが、出版が遅れている。現在、2012年の半ばに出版される予定である。 財務データの収集では、これまで主に電器産業と機械産業内の日米企業を対象にしてきた。両国、両産業とも1産業内で百社以上のサンプルが取れるからである。ランダムに選択した企業のサンプルも収集したが、分析はこれからである。財務データは主にCapitalIQとNikkei Needsから取っている。日本、米国以外の企業(例:アジア、ヨーロッパ)のランダム・サンプルを作っている。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度に予定していた殆どのデータ・資料を集めることが出来た。アンケート調査も終えられた。今後は計画通り、集めたデータを使って論文の書き上げるつもりである。2012年度には少なくとも5,6本の研究論文を書き上げ、学会の大会で発表またはジャーナルに投稿する予定である。また、もう一回アンケート調査をする予定である。2011年度に実行したアンケートとは違うデータを収集する。 2011年度に行った過去に行われた研究の調査や、企業トップとのインタビューから分かったことは、次の2つのことである。まずは、 不況勃発後の企業の戦略的対応によって企業業績が大きく影響されることである。例えば、不況が起こったら、業績不振に陥った企業は宣伝費や研究開発費を増やすべきか、減らすべきかの選択を迫られる。多くの企業にとっては宣伝費を増やすべき、ということは発表した論文#2で検証された。2012年度では、他の戦略的行動が企業業績の変化に影響するかを研究し、論文を書く予定である。 もうひとつは、不況勃発後の企業の業績の変化は、不況勃発直前までに企業が蓄積した競争力(例:スラック、差別化(Innovativeかマーケティング差別化)、企業経営者のSocial capital)が大きく影響することである。例えば、Innovative差別化をより高く達成していた企業は、不況勃発後他の企業よりも比較的はやくに業績回復するし、また、より大きく回復する。2012年度では、不況勃発直前までに企業が蓄積した競争力の業績への影響を研究し、論文を書く予定である。上記2つのパターンの研究を実行するスケジュールである。 また、2011年度に収集した財務データの中で、日米企業からランダムに選択されたサンプルと日本、米国、アジア、ヨーロッパ企業からランダムに選択されたサンプルを使って比較研究をする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2011年度の予算の一部を2012年度に繰り越した理由は、まず、アンケートの発送が2012年春にのびたこと。また、構築する予定だったホームページが2012年にのびたことである。 「今後の研究の推進方針」に書いたように2012年度は2つのStreamsの研究を実行するつもりである。2012年春に実行したアンケートの大部分は、第1の「不況勃発後、他の戦略的行動が企業業績の変化に影響」に関係する。それで2012年度にもうひとつのアンケートを実行し、もう一つStreamの「不況勃発直前までに企業が蓄積した競争力」に関するデータを作成するつもりである。このアンケートでは、日本と米国で800社ずつの企業にメールを送る予定である。この分野でよく使われるHierarchical Linear ModelingやLISRELのような統計ツールを使うには多くのサンプルが必要である。それで第1回のメールで返事が無い企業には、第2回、第3回のメールを送るつもりである。 また、より多くの論文を広く発表するつもりである。2011年度に収集したデータの分析を実行し、論文を書く予定である。今年度中に少なくとも3,4の国際的な学会(主に欧米)の大会で発表する予定である。(書いた論文の英語校正が必要である。)また、国内での学会発表も行う予定である。さらに研究で発見したことを広く知られるようにホームページを構築、運営する予定である。日本語と英語版を作成する。 物品では、不況や統計学に関する書籍が必要である。また、消耗品では、プリンタ用のインク、アンケート用の封筒や用紙、DVDのメディア、スキャナー、文房具等が必要である。
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