BOPビジネスの先行研究においては、BOP が想定する社会開発課題の改善にどの程度寄与してきたか、という実証的問題に学問として取り組まれてきたとは必ずしも言えず、どちらかと言えば、一つ一つの事例を定性的なエピソードとして紹介するにとどまり、統計分析や計量分析を駆使した本格的な研究は行われてこなかった。そこで、本研究において、主としてインドの南部3 州(AP、タミルナドゥ、カルナタカ州)を中心に、インドの「水ビジネス」に焦点を当てた実証研究を行い、それぞれの州から2 村を選んでパイロット調査を実施し、「水ビジネスの事業性と社会開発(雇用、所得、衛生面等)」について現地NGO・社会企業(ソーシャル・ビジネス)と協力して400 世帯をランダムに抽出した家計調査を実施した。家計調査では、水汲みの状況やコスト、衛生状況・水因性疾病状況をインタビュー形式で集計した。同時に、水ビジネスを展開する欧米企業・本邦企業による萌芽的BOP 活動による先行事例をレビューし、各企業が取り組む開発課題(水・衛生環境改善、雇用創出、貧困削減等)別に類型化すると同時に、そうした企業活動を支援する政策的・制度的な枠組みについて援助機関や国際機関(JICA、UNDP、世銀)を訪問し、支援の特徴や方法についてとりまとめた。これらの研究成果は「BOP 水ビジネスがインド農村における飲料水確保に寄与する」ことを実証的・計量的に示すことには成功した。一方、当該ビジネスが企業にとっての事業性を持ちうるのかについて、仮説事例ではありながら、「水ビジネス」(塩素剤を用いた小分け販売事業)を具体例として、費用便益分析、財務分析(財務的内部収益率、投資コスト回収までのシナリオ分析)についても、ある程度示すことに成功した。
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